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千一夜
第42章 第七夜 訪問者 雨
 竹内が店の格子戸を開けた。カラカラと言う音。どうしてだろうか、その音は心地よく私の耳に届いた。私はこの音を聴いたことが一度もない。
 店の中に仕舞われている暖簾に手をかけて竹内は咲子にこう言った。
「さぁ、お嬢様」
「ありがとう」
 咲子が竹内に礼を言って店の中に入った。
「長谷川さんもどうぞ」
「ありがとうございます」
 私は咲子に続いた。
「それでは私は車の中で待っております。電話をお願いいたします」
 竹内の後の方の言葉は、店の主人に向けて言った言葉のようだ。白の和帽子を被り、調理用白衣を纏った店の主人が竹内に軽く頭を下げた。
「竹内さんもご一緒にいかがですか?」
 私は竹内にそう言った。
「私はこのお店に入る資格がございません。どうぞお嬢様と長谷川様でお楽しみください」
 竹内はそう言って店の格子戸を閉めた。
 カラカラと言う音が静かに止んだ瞬間、私の目に店の様子が映し出された。店はエル字型のカウンター席のみ。エル字の直線の長い方に椅子が五席。短い方には椅子は無かった。
 店の主人の前に咲子が立った。私は咲子の横に並ぶ。
「お嬢様、お久しぶりでございます」
 主人はそう言うと咲子に向かって頭を下げた。
「本当、ここに来るのは久しぶりだわ。紹介します。こちら私が住んでいる街の市役所に勤めている長谷川亮太さん」
「長谷川です。よろしくお願いいたします」
 寿司を食べる前によろしくお願いしますなんて何か違うような気がする。だが私はこういう場には慣れていない。
「早川と申します。こちらこそよろしくお願いします」
 早川は私にも頭を下げた。当たり前だが、咲子と私とでは頭を下げた角度は違う。
「カウンターのこの天板、無垢材を使っているの。もちろん塗装なんてしてないわ」
「……」 
 塗装の化学臭など一切しない。だからと言って木の匂いが強いわけでもない。私が感じているこの空間は一体何なのか……そうだ!森だ!今私は森の中にいるのだ。
「どうぞお掛けになってください」
 早川は咲子と私にそう言った。
 椅子に腰かける。するとすっと緊張が解けていくのがわかった。まさか椅子のせいではないと思うが、間違いなくこの椅子も特注品のはずだ。
 店の外観はいただけたものじゃなかったが、店の中は外観とは全くの別物だった。店の中は、私が思う高級寿司店そのものだった。
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