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千一夜
第42章 第七夜 訪問者 雨
 車は函館を走っている。そして箱館も雨が降っていた。この分だと予報通り雨は明日まで降り続くかもしれない。
 ほぼ一日かけて然別湖から函館まで進んだ。途中何度か休憩を取ったようだが、私が覚えているのは昼食のために寄ったお蕎麦屋さんだけだ。そのお蕎麦屋さんを選んだのは竹内だった。
 竹内は私にこう言った。
「長谷川さん、北海道と言うとラーメンと言うイメージが強いんですが、本当に旨いのは北海道のお蕎麦です」
 竹内の言葉に嘘はなかった。
 私はこの旅で人生初と言う体験を何度かしている。高級車での長距離移動であるとか、屈斜路湖でのカヤックであるとか、竹内が用意してくれる高級酒とか。
 そして竹内がチョイスしたお蕎麦屋さんのお蕎麦。間違いなく今まで生きてきた中で一番旨いお蕎麦だった。役所の食堂で提供されるお蕎麦とは天と地ほどの差があった。
「蕎麦の本当の味を楽しみたいなら断然もりですね。まぁこればかりは人それぞれですが」
 私は竹内のアドバイスに従ってもりを頼んだ。
 私は大食漢ではないが、そのときだけはもりを三枚平らげた。そんな私を見て咲子は笑った。もちろん竹内も。
 数日後、私は役所に戻る。役所の食堂に顔を出してもしばらくは蕎麦を注文しないだろう。食堂のスタッフが悪いわけではない。北海道の蕎麦が旨すぎたのだ。
 ホテルのチェックインの前に夕食を取る。車は、活気のある繁華街からだいぶ離れた人の少ない商店街を走っている。こんなところに店があるのか? 私はふとそう思った。
「到着しました」
 竹内はそう言って車を止めた。まさかここじゃないだろ。車から見えた店の中には灯りがついてる。だが暖簾は店の外ではなく店の中に仕舞われていた。
 その店の右隣は文房具店で左隣は菓子店だ。だからと言うわけではないが、店もおしゃれな感じが全くしない。ところが……。
「もうお腹ペコペコ」
 咲子はそう言ったのだ。
「ここは何のお店?」
 私は私の疑問をストレートに咲子にぶつけた。
「お寿司屋さん」
「寿司屋?」
「そうよ」
「暖簾も出てないし、看板もないんだけど」
「ふふふ、ここはそういうお店なの」
「そういう店……って?」
「遠山の関係者だけが入ることのできるお店」
「遠山家の隠れ家……みたいな」
「そうなるわね」
「……」
 遠山家の特別な店。そんな寿司屋が函館にあった。
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