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濡れた砂漠の村
第1章 その村への旅
「この後、きっとたくさん人が乗ってくるよ。いつもそうなの。」

人懐っこい彼女が入国手続きの合間に話しかけてくれる。みんなどこへ向かうのかな、と聞くと、この地域にはたくさんの村が散らばっていて、最終終着地のあの村まで何十と停車するという。さらにバス停以外の色々なポイントでも少しずつ人を下ろして行く形式なのだという。この地域を走る安全な長距離の交通手段はこのバスしかないので、すごく混むのだそうだ。安全?と繰り返す?

「そうよ。これから険しい山肌を通っていくわ。崖崩れがあったり、慣れないドライバーが走って滑落することはしょっちゅうなの。悪魔の崖って呼ばれてるのよ。だからみんな、信用できるこのバスに乗るの。ねえ、良かったら入国後、隣に座りましょうよ。」

バスに戻るとまだ追加な乗客は入っていなかった。カップルと私は通路を挟んで隣に座る。彼女が突然、興奮気味で手を振り、前方へ乗り出す。

「あなた、乗ってたの?気づかなかった!休暇なの?」

あのダイナーで見た乗客だ。どうやら知り合いのようだ。

「君たち夢中でずっとセックスしてたから気づかないだろうなと思ったよ」

クスクスと笑い2人は故郷へ帰ってからの予定などを話している。私はその従兄弟である人物に紹介される。ディナーのとき少し話したね。と彼は答える。

「ここに座りなよ!ねぇ、あなた、いいでしょう?」

明るく人懐こい彼女は、いとこを私の隣へとやや強引にまで導く。これからバスはいっぱいになり、どうせ誰かが隣に来るのだ。特に問題はない。だんだんとバスは賑やかになり、それはいっぱいに膨れ上がってゆく。バスは走り出し私たちはまた夜の闇に飲み込まれる。心地よい振動を身体に感じ始めた私は、また少しぼんやりとする。

一通りの報告を終えた2人の会話は途切れ、彼女はまた彼との弄り合いへと戻っていく。私は重い瞼を感じながらそれを聴く。隣の乗客に目を向けると、優しい微笑みを返される。私は少し微笑み、そして黒々とした窓の外へ視点を移す。まだ、ここから長い時間、揺られていくのだ。
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