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濡れた砂漠の村
第1章 その村への旅
初めの6時間程度は、ひたすら国境沿いをまっすぐにすすむ。バスでは特にやることもなく、地平線まで果てることなく乾いた土地が通りすぎるのをただただぼんやりと眺める。ほとんど乗客はおらず、若いカップルと、1人か2人、前の方に男性がいるのが見えたような。安いバスなので車内は埃っぽく、決して快適とは言えないけれど、どこか懐かしい、人懐っこいような匂いと温かみがある。

時間がじっとりと経つ。若いカップルが、欲望を抑えきれずに体をまさぐりあっているのが見える。そしてそれは液体をかき乱すような音の響きへと変わり、そして荒くなる息遣いが届く。そして一瞬の静けさ。一通り終わったのだろう。お手洗いへと向かうところで彼女はウインクをする。私はそれにうなずきかける。

夕飯は道路沿いの寂れたダイナーに寄る。私は簡単なサンドイッチを頼み、薄いコーヒーをすする。

こんなバスに、どうして?

同じバスに乗っているという男がカウンターの二、三席離れたところに座り、会話をはじめる。

x村に行くつもり

この旅は、自分のためだけにするのだと決めてきた。とくに誰かに媚びるつもりはないし、話を盛り上げる努力もしない。頼んだオーダーへ目線を移したあと、ゆっくりとこちらをまた向く。

その村のこと、よく知ってる?

少し口角を上げ頷く。そして私はコーヒーに安い粉のミルクを入れ、混ぜていく。会話が止まり、無言でディナーは終わる。

コーヒーはきっと薄かったのだろう。私はバスに乗ると、ウトウトしはじめる。あのカップルはヒソヒソと囁き合い、なにやらクスクス楽しそうにしている。すっかり日が沈み、暗くなった車内だ。私は不意に浅い眠りに堕ち、そしてまたボンヤリと眠りから覚めることを繰り返す。あのカップルを見つめること以外、砂漠と暗闇の中で、この世界を客観的に認識できるすべがない。セックスを始めたカップルをぼんやりと眺める。古いシートの軋む音が響き渡るものの、エンジン音でかき消される。シルエットで彼女の体が優しく上下するのがわかる。何かを囁き合っている。だんだんと早まるリズム、そして激しく打ちつけ合う肌。わたしはまた眠りに堕ちる。
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