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シャイニーストッキング
第14章 絡まるストッキング8        部長佐々木ゆかり
 245 脱出大作戦

 そしてこれからのリアルな問題は…
 どうやって、この部長室から誰にも見られないように退散する、いや、脱出するか、なのである。 

 万が一にも、一緒に居る所だけは見られたくはない…

「さ、とりあえず帰るわよ」

「あ…、は、はい…」
 わたしがそう告げると、杉山くんは少しガッカリしたような返事をしてきた。

 その杉山くんの気持ちは解らないでもないのではあるが、今夜は、もうこれ以上、一緒に居る意味がわたしには無いのである…
 そしてわたしは、うまく帰る方法を模索していく。


「よしっ、こうしよう…
 わたしが通路を覗いてチェックしてオーケー出したら、素早く、静かに出ていくこと」
 そう杉山くんに言う。

「あ、はい、了解っす」

 時刻は午後10時半過ぎである…

 中番と遅番の入れ替え時間にはまだ余裕がある…
 脱出するなら今しか無いのだ。

 わたしは部長室のドアのロックを外し、ゆっくり、静かに、ソローっと少しだけドアを開き、顔を通路側に出してチェックをする。
 幸い、この部長室は出入口のすぐ脇にあり、オペレーションルームからも、ロッカールームの通路の角にあり、完全に死角になっていた。

 よし、誰もいない…
 通路に顔を出すと、オペレーター達の話し声の騒めきが少し聞こえてきていた。

 損保コールセンターは、24時間対応なのである…

「よしっ、今よっ」
 わたしはサッと頭を戻し、そう囁きながら後ろを向くと…
「えっ…」
 そのわたしの真後ろに、つまりは、後ろを向いたすぐ直前に、控えている杉山くんの顔があり、わたしはドキッとしてしまう。

「あっ、はいっ」
 そして杉山くんは小さな声でそう返事をし、なんと、わたしの手を掴み、そしてもう片手で肩を引き寄せて…

 キスをしてきたのだ…

「え…あ……」
 それは本当に一瞬の電光石火の早技といえるキスであった。

 そして、スッと唇を離し…
「じゃあ、あざっす」
 と、そう囁いて、静かに、急いで部長室のドアを出ていったのである。

「え……」

 わたしはそんな杉山くんの一瞬の、つまりは『お別れのキス』に、心の隙間を突かれたカタチとなり、ポカンとしてしまう…

 あぁ、やられたわ…

 まさかあのタイミングで…

『お別れのキス』をしてくるなんて…





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