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Memory of Night 2
第50章 episode of 0

「あ…………」

 薄闇の中に浮かび上がる白い肢体。
 短い髪は確かに男の子のようだが、胸には女性にしかないはずの膨らみがあった。
 どういう状況なのか、理解が追いつかない。
 勝手に家に侵入してしまった自分。目の前にはこの部屋の借り主である全裸の女性。
 一般的な女性なら、体を庇いながら大声をあげるだろうが、桃華の反応は真逆だった。

「ーーてめえ、あたしの部屋で何してんだよ!」
「あ……、あ……」

 人はパニックになると、本当に動けず、何も言葉にできなくなるらしい。
 秋広は頭が真っ白になった。

「しかもその財布……」
「あ、あ……」
「盗(と)ってんじゃねえよ!」

 完全に誤解されていた。解けるような状況のはずもなく。
 桃華は二歩ほど隣に足を踏み込み、フライパンを手に取る。かなり狭いが、一応キッチンスペースらしい。

「返せ!!」
「ひぃ……っ」

 振り上げたフライパンで右側から頭を強打される。痛みに悲鳴をあげるまもなく、気付いたら財布を奪われていた。
 いや、もともと財布は桃華のものなので、奪われたわけではないが。
 逃げることもできず、腹を思いきり蹴り飛ばされた。
 秋広の体は吹っ飛び、わずかに開いていた玄関のドアも越え、世界が反転した。
 空が見えた。秋晴れの空は青かったが、痛みと吐き気で、秋広はそのまま起き上がれない。
 無情にもドアと鍵が閉まる音が響いた。
 秋広は這うようにして車に戻り、やっとの思いで逃げ帰った。
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