この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
Memory of Night 2
第50章 episode of 0
「あ…………」
薄闇の中に浮かび上がる白い肢体。
短い髪は確かに男の子のようだが、胸には女性にしかないはずの膨らみがあった。
どういう状況なのか、理解が追いつかない。
勝手に家に侵入してしまった自分。目の前にはこの部屋の借り主である全裸の女性。
一般的な女性なら、体を庇いながら大声をあげるだろうが、桃華の反応は真逆だった。
「ーーてめえ、あたしの部屋で何してんだよ!」
「あ……、あ……」
人はパニックになると、本当に動けず、何も言葉にできなくなるらしい。
秋広は頭が真っ白になった。
「しかもその財布……」
「あ、あ……」
「盗(と)ってんじゃねえよ!」
完全に誤解されていた。解けるような状況のはずもなく。
桃華は二歩ほど隣に足を踏み込み、フライパンを手に取る。かなり狭いが、一応キッチンスペースらしい。
「返せ!!」
「ひぃ……っ」
振り上げたフライパンで右側から頭を強打される。痛みに悲鳴をあげるまもなく、気付いたら財布を奪われていた。
いや、もともと財布は桃華のものなので、奪われたわけではないが。
逃げることもできず、腹を思いきり蹴り飛ばされた。
秋広の体は吹っ飛び、わずかに開いていた玄関のドアも越え、世界が反転した。
空が見えた。秋晴れの空は青かったが、痛みと吐き気で、秋広はそのまま起き上がれない。
無情にもドアと鍵が閉まる音が響いた。
秋広は這うようにして車に戻り、やっとの思いで逃げ帰った。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


