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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第28章 第十一話 【螢ヶ原】  其の四 
 その日以降、伊勢次がお彩の身体を求めてくることは二度となかった。そのことに、お彩がどれだけ胸撫で下ろしたことだろう。
 二人の暮らしは、何事もなかったかのように淡々と過ぎていった。
 伊勢次の態度があまりにも自然で、以前と変わらなかったので、お彩はよもや、伊勢次があの夜、螢ヶ原で泣くお彩を見ていたとは想像だにしなかった。
 そうこうしている中(うち)に日は過ぎて、暦は後少しで長月に入ろうとしていた。身重のお彩にはこたえた暑い夏もそろそろ終わりに差しかかったある日、江戸から早飛脚が訪来した。
 伊勢次宛に江戸の知人がもたらした文であったらしい。が、伊勢次当人が何も話さないので、お彩の方から立ち入ったことを聞くのもはばかられた。
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