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一夜草~ひとよぐさ~【華鏡(はなかがみ)】
第33章 浜辺の約束
千草から低いすすり泣きが洩れた。
「憶えておりまする。忘れるはずがないではありませんか。五歳のときの、睡蓮の池での出来事でございましょう。ですが、あれは所詮は子どもの口約束、何ほどの意味があるとは思えませぬ」
頼嗣の声がまた少し大きくなった。
「そなたは本当にそのように思っているのか。あの約束には何の意味もないものだと」
千草は無言のままだ。静かな空間に、ただ潮騒の音だけがひそやかに鳴り響いていた。