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如月茜(きさらぎ あかね)
第5章 第5話:聖夜の検品、あるいは極北の晩餐
「…本当です、本当なんです……っ! 」
「お願いです、お願いですから……私を……っ!」

母親のあまりにも異常で、非現実的な、けれどあまりにも陶酔に満ちた姿。

普通なら「ママ、頭がおかしくなったの!?」と正気に戻そうとするところ、

だが、不思議と違和感どころか、なぜか心の奥底で奇妙な共感すら芽生えていた。

目の前で起きた出来事を、娘の美咲はただ呆然と見つめていた。

しかし、急激に変貌した母親の姿に感じたのは、違和感や恐怖などではなかった。

むしろ、どこか「女としての同感」のような、奇妙な熱を帯びた納得感の方が強く美咲の胸を満たしていった。

(……ママが、あんな幸せそうな顔をしてる……?)

信じられない光景だった。
あんなにも拒絶し、怯えていたはずの母親が、自らのすべてを差し出した果てに見せたのは、深い満たされた笑みだった。

(どういうことなんだろう、これって……。)
(やっぱり、茜さんの言ってたことの方が正しかったのかな。すっごい……ママ、幸せそう……)

美咲のなかで、それまで絶対的だった倫理や常識のタガが、音を立てて外れていく。

母親があれほどまでに満たされているのなら、自分も同じようにすべきなのではないかという、抗いがたい同調圧力と陶酔感が波のように押し寄せた。
(……私も、見せますって、言った方がいいのかな。ねえ、ちょっと待って……)

美咲は自分の胸に手を当て、混乱と熱に浮かされた頭で必死に思考を巡らせた。

(私自身、ママを見ていて……私だって「見せたい」って思っている。この胸の高鳴りは、いったいどういうことなの……?)

心の中の美咲が、自分自身の問いに答えるように、あるいは自分を正当化するように、澱んだ声で呟く。

(私も、ママみたいに幸せになりたい……。)
(あんなふうに、すべてを捧げて満たされた顔になりたい……)
それは理性の崩壊であり、歪んだ救済への傾倒だった。

拒絶していたはずの深淵へと、美咲の心は抗う術もなく、甘美な絶望とともに滑り落ちていくのだった。

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