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その足に頬を寄せたい
第1章 その足に頬を寄せたい
喉はとても渇いていた。
二人してソファーに座り、ごくごくと水を飲むと、ふいに朋子が口を開いた。
「ちょっとだけ、自分の話していい? 誰かに話したくなった」
「いいよ」
朋子が笑う。ボブが揺れて、どこか儚く見える笑顔だった。
「あたし、結婚するはずだったの。東京で付き合ってた人と。でも、そうしたら店やめないといけないし、家にいてほしいって言われて、今の自分の生き方ができなくなるって思ったら、なんか怖くなっちゃって。地元に帰ってきちゃった。彼のことは好きなんだけどね。好きなんだけど、結婚したら名字も変わるし、えっと、そういうことじゃなくって」
早口になっていく朋子。僕はなんて言ったらいいかわからないから、ずっと相槌を打った。
朋子の目を、じっと見つめる。
マリッジブルーというものだろうか、と思う。聞いたことはある。
「あたしの返事を、待っててくれてるから、そろそろ決めないといけないんだけど。……このまま結婚していいのかな?」
明確に、僕に答えを求めてくるのも初めてだった。
好きだった女の子。まだ、好きなのかもしれない。
こんな時、達紀ならどう答えるか考える。
俺にしときなよ。
きっとそう言って、スマートに連れ去れるんだと思う。
でも僕は。
「好きなら、彼と結婚した方がいいよ、きっと」
朋子の黒曜石のような目が、僕を見つめ続ける。
「結婚をやめても後悔すると思う。たとえばこの先違う人とお付き合いしても、また同じように結婚する時不安になっちゃうかも。好きだったら、その人を選んで。気になることは話し合って、ゆっくり妥協案を見つけていけたらきっと大丈夫だから」
くすっと、朋子は笑った。
「ありがとう。やっぱ智いい人」
どういう意味、と続けようとした智の言葉を塞ぐように、朋子は続けた。

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