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禁忌の鍵を外す夜【短編】
第1章 禁忌の鍵を外す夜
◇ ◇ ◇
桃花様の部屋の扉を閉めた瞬間、私はその場に崩れ落ちそうになるのを、どうにか堪えた。
背中を扉に預け、天を仰ぐ。
外した手袋を握りしめる手のひらには、まだ彼女の頬の柔らかさと、唇の熱が信じられないほど鮮明に残っていた。
( ……阿呆が。危うく、すべてを台無しにするところだった )
胸の奥で、ドクドクと不快なほどに心臓が脈打っている。あと一秒、彼女の閉じた睫毛を見つめるのが長ければ、私は間違いなく理性を失っていた。
そのまま彼女をベッドに組み敷き、あの吸い付くような唇を貪り、執事という立場も、これまで築き上げてきたすべてをも投げ出して、彼女をどこか遠くへ連れ去っていただろう。
目を閉じれば、今でも鮮明に思い出す。
私が彼女を、一人の女性として愛してしまったあの瞬間のことを──。
これまで何人もの名家のお嬢様に仕えてきた。彼女たちは皆、私を『便利な道具』か『着せ替え人形』のようにしか見ていなかった。
私の差し出す手を取りながら、その瞳はいつも別の虚栄や贅沢を見ていた。執事とはそういうものだ、と割り切っていた。
けれど、桃花様だけは違った。

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