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禁忌の鍵を外す夜【短編】
第1章 禁忌の鍵を外す夜
ドライヤーの低い音が、静まり返った私の部屋に響いている。
「……桃花様、お熱くはありませんか」
鏡越しに、白城と目が合った。
いつもと変わらない、非の打ち所がない端正な顔立ち。
けれど、私の濡れた髪をすくう彼の長い指先が、ほんの少しだけ震えているのを私は見逃さなかった。
「…大丈夫。白城の手、気持ちいいから……、ずっとこうしていてほしいくらい…」
わざと甘えるように呟くと、鏡の中の白城が喉を小さく鳴らして、息を呑んだ。
明日、私はこの屋敷を出る──。父が決めた政略結婚の相手・彰人さんの元へ嫁ぐために。そこに私の意志なんてない。ただ、家のためだけに交わされる契約。
ドライヤーの音が止まり、部屋に重たい静寂が戻る。
白城は丁寧に私の髪を整えると、そっと手を離そうとした。その瞬間の、肌が粟立つような寂しさに胸が締め付けられる。
私は思わず、彼の白い手袋に覆われた手首を強く掴んでいた。

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