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白衣を脱いで~北新地の夜に溶け合う三人の蜜
第1章 白衣の私
その夜、私は一人で仮眠室に残った。 滅多に仮眠室で寝ることはなかったが、この日だけは特別だった。

天井の蛍光灯がかすかに明滅する中、私は自分の体が、仕事の緊張とは別の熱を帯びていることに気づいた。

部長の低い声、的確な判断、そして不意に見せる優しさ。 それが、私の中で静かに発酵し始めていた。病棟で患者の検査値を見ながら処方提案をするときでさえ、彼の指先の感触が蘇り、下腹部が微かに疼く。

職場の人間模様は、複雑に絡み合っている。 田村さんは、部長が私にだけ少し長く説明をするのを、目の端で捉えている。

「高〇先生、最近、部長と話す時間、増えたわね」

ある昼休み、給湯室でそう言われた。

「仕事の確認です。DIの共有もありますから」

私は微笑んで答えたが、喉の奥が少し渇いた。 佐藤は、香澄に気があるらしく、病棟から戻るたびに「香澄ちゃん、NSTのカンファでこの栄養剤どう思う?」と話しかける。香澄は丁寧に答えつつ、私のほうをちらりと見る。

「先輩、佐藤さん、ちょっとしつこいです」

ある日の午後、調剤台の陰で香澄が小さく囁いた。

「放っておきなさいよ。仕事に集中よ。抗がん剤の処理、残ってるわよ……急いでね」

「はい……でも、先輩は部長と、うまくやってるみたいで」

私はカンファの資料を作成しながら、その質問には答えなかった。

*******
不倫が始まったのは、もっと静かな夜だった。 外来が終わり、スタッフのほとんどが帰宅したあと、私は一人で向精神薬の棚卸しをしていた。特殊医薬品の管理記録も確認し、麻薬の残数を二度数え、抗がん剤の冷蔵保管庫の温度をチェックしていると、部長が入ってきた。

「まだ残ってたのか」

「はい。明日の調製分と、治験薬の入庫」

部長は黙って隣に立ち、同じリストを覗き込んだ。

「君は、いつも一人で抱え込む」

「……すみません」

「謝る必要はない。ただ、疲れてる顔をしてる」

その言葉に、私は顔を上げた。 部長の目が、いつもの冷静さを少しだけ緩めていた。

「美香」

名前を呼ばれた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。 私は、自分から彼に近づいた。 白衣が触れ合い、吐息が交じる距離。 「部長……」 彼は答えず、私の唇に自分の唇を重ねた。 甘く、しかし確かな圧力だった。


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