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影を背負った愛~足りない愛を、君に
第26章 父の日の前夜 ~夢の余韻(start-2day)~ 彩香編①
大阪に逃げてから3週間が経っていた。

彩香は仕事帰りにスーパーで食材を買ってアパートへ戻った。
いつものように鍵を開け、狭い玄関に立つ。

155cmの小さな体が、今日は特に疲れていた。

「ただいま……」

独り言のように呟いて電気をつけた瞬間、違和感を覚えた。

部屋の空気が、わずかに違う。


そして——


「彩香」


低い、渋みのある声が背後から響いた。
彩香は袋を落としそうになり、振り返った。

そこに大内健治が立っていた。

175cmのがっしりとした体躯、深く刻まれた皺、鋭い眼差しに口ひげ。
いつものスーツではなく、シンプルな黒のニットとコートを着ていたが、
存在感は圧倒的だった。


水泳と筋トレで鍛えられた厚い胸板と広い肩幅が、
狭い1Kの部屋をさらに狭く感じさせる。

「どうして……ここが……」

声が震えた。スマホは電源を切っていたはず。会社にも親にも、絶対に言っていない。

健治さんは静かに一歩近づき、落ちかけたスーパーの袋をそっと受け取った。


その大きな手が彩香の指に触れただけで、彩香の背筋に甘い痺れと恐怖が同時に走った。


「取引先の知り合いに聞いた。
……お前が大阪に来たと。無理やり聞き出したんじゃない。心配で、調べただけだ」

健治さんの声は穏やかだった。

でもその奥に、抑えきれない独占欲が滲んでいるのが彩香にはわかった。

「逃げた理由は、だいたいわかる。俺の……重さが、怖くなったんだろう?」

健治は彩香の黒縁メガネの奥を覗き込むように顔を近づけた。

40代半ばの男らしい色気と、父親のような包容力が混じった眼差し。

彩香は後ずさり、壁に背中を預けた。

「健治さん……ごめんなさい。私、怖くなったんです。
同棲して、毎日『お前は俺のものだ』って言われるたびに、嬉しいのに
……息が詰まって……」

健治の大きな手が、彩香の細い肩を掴んだ。

力は強くない。
でも、逃げられないという意志が込められていた。
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