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SAKURA(さくら)
第1章 しだれ桜
 8

「あ、あの…ね……」

「………」
 吐息が、近い。

 その、甘い香りで、いっぱいになりそう…

「さ、さっきもさ…」

「………」
 逸らない目も、近い。

「さっきもさ、ずっと見てた…もんね……」

「あ……」

『触りてぇなぁ…』
 ヤツの声が…
 逸らしてしまう。

「ねぇ、知ってる?…」

「え…」

「ストッキングってさぁ…」

「………」

「どんなに小さなほころびでもさぁ…」

「………」

「一つでも、ほつれちゃったらさぁ…」

「………」

「ストッキングとしての価値が………
 ゼロに、なっちゃうのよ……」

「……っ」

 言葉を、返せない…

「わたし…も……同じ……」

「あ、い…ぃゃ………」

 何を、返せば、いいのか…

「わたしも…さ……」

 目が逸れ、下を、いや、自分のストッキングの伝線を見つめ…

「なんか…さ……」

 そして、俺の指先に添え、伝線のスジをさかのぼる…

「あ……」

「でもね…」
 心が、跳ねる。

「じっと…
 ずっと、見てくれてね…」

「………」

 かかる吐息の甘さに、むせそう…

「見てくれて…嬉しかった……の………」

 指先が、絡んできた――

「ゼロじゃ…ないんだ…て……」

『直に舐めてぇなぁ…』

 俺も、あの時、ヤツの呟きに、同調したんだ…

「慶太くんは…見て…くれるんだ…て……」

「………」

「だ、だから…穿き…変えなかった…の…」

 触れ合う指先が震え…

「さ、触って…欲しく……て………」

 弥生さんと、ゆっくりと、ひとつに繋がっていくみたいに…

「も、もっと、見て…欲しく……て……」

 触れるナイロンが湿り、吸い付く―――

「ほら…まだ……わたし…は………」

「………」

「まだ…散って…ないんだなぁ…て……」

「………」

 それは、昨夜の…

『触れたら、簡単に散っちゃうんですからぁ』

『ほら、しだれ桜ってぇ…
 弥生さんみたいに繊細なんですからぁ…』

 美卯の…言葉―――

「見て…触れて……くれる……て………」

「あ…や、弥生さんは………」

 どう、言い表してよいのか……

 その先が、続かない―――



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