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SAKURA(さくら)
第1章 しだれ桜
 7

「は…ぃ……す、好き………っす…………」
 
 その言葉は、自分のものじゃないみたい…

「……そう……」
 弥生さんは、小さく頷く。

 責めるでもなく、笑うでもなく…

 ただ…

『知っていた』

 そんな、顔。

「やっぱり……ね……」

「…………」
 手は、まだ、膝の上にあった。

 さっきまでは、掴まれていたはずなのに…

 今はもう…

 離そうと思えば、離せる、緩さ―――

「…………」

 なのに、離さない…

 離せ……ない。

「っ……」

 指先に触れる、伝線のざらつき…

 その一点だけが、やけにはっきり感じとれ…

 他のすべては、ぼやけていた。

 グラスの触れる音も…

 周りの会話も、騒めきも…

 いつの間にか、遠くに退いていた―――

「……慶太くん……」

「……はい……」

「もう……いいのよ……?」

「…………」

 その言葉は…

『やめてもいい』なのか……
 
 それとも―――

「無理に……触って…なくたって……」

「……」
 一瞬だけ、手を引こうとした。

 ほんのわずかに、指先が浮いた…

 けれど―――

「…………」

 自分で、  戻してしまう。

 そして… 

 なぞるように、伝線の筋を、指で追ってしまう。

「あ……」

 小さな、吐息…

 弥生さんの肩が、わずかに揺れる。

「……やっぱり……」

 その声は、どこか安堵していて…

 同時に、  崩れていくようでもあった。

「ちゃんと…触って…くれる…の…ね……」

「………」

「好き……なんだ…ね………」

 返す言葉が、出ない…

 ただ、触れている…

 触れて、しまっている。

「ねぇ……」
 弥生さんは、視線を落としたまま、ぽつりと呟く。

「最近ね……」

「…はい……」

「…触れられ……なく……て……」

「………」
 一瞬で、空気が変わった。

 そして、弥生さんの膝が、熱くなった―――

「…………」
 
 けれど…
 
 十分すぎるほど、伝わってしまった。

「…あ、あの…ね……」

 ゆっくりと、俺を見てくる…

 逃げ場のない距離で―――



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