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SAKURA(さくら)
第1章 しだれ桜
 11

「ありがとうございました…」
 外に出ると、すっかり気温が下がっていた。

「…あのぉ……」

「…あ、いいのよ……」

「す、すいません」

「わたしが誘ったんだし…それに、上司だしね」

「ご、ごちそうさまっす」

 離れてしまった手と共に…
 リアルな現実が、現れてしまった。

「…………」
 そしてそのまま、無言で、足が駅へと向かう。

「ふうぅ…」

「………」

 その、弥生さんの吐息の意味は、痛いくらいに分かる…

 だけど…

 一度離してしまった手の距離が…

 近いようで、遠くなってしまっていた。

「………」

 だが…

 行き交う、週末の人々の流れが、俺を後押ししてくれた…

「…あん……」

 飲みの帰りであろう、サラリーマンの人集りが、横に広がり、押してきた…

「あっ」

 俺は、咄嗟に弥生さんの肩を抱き、導き…

 触れられた―――
 
「……あ、ありがとう……」

「………」

 もう、離さない―――

 でも…

「ね…」

「え…」

「痛い…わ……」

「あっ」

 まだまだ、俺は、若い…

 つい、きつく、握ってしまっていた。

「あ、す、すいません…」

 だが…

「ううん、離さないで……」

 弥生さんは、そう呟き、そして…

「寒い……ね………」
 腕を、絡めてくれた。

「………」

 触れ合う、肩…

 絡む、腕…

 伝わる、鼓動…

 コツコツ…

 雑踏の中に、聞こえる、ヒールの音…

 弥生さんは、間違いなく、隣にいる…

 一緒に、歩いているんだ―――


「………」

「………」

 弥生さんの足が、わずかに止まる…

 見上げる目…

「………」

 絡めた腕は、そのままに…

 ほどけないまま、夜の中へ―――
 


 
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