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『春の嵐』
第3章 序章。
香菜は、小学校の低学年でしくじった。

一緒に登校することになっていた恵樹を反応が鈍くて、頼りないと感じた。だから、相手にしなかった。いや、どちらかと言えば、小馬鹿にして無視していた。

でも、学年のアイドルと呼ばれた梨々香は、そんな恵樹を可愛いと感じ、みんなの前でハグして見せた。しかも、

「可愛い」

と、何度も言って。あっという間に、『恵樹は可愛い』という認識が女子の間に広まった。

「どこが可愛いの?単に鈍いだけじゃない!」

反発した香菜。他の女子から、

「香菜って一緒に帰るんでしょ!羨ましい」

などと言われると、

「全然。一緒に何て帰りたくないし、帰らない」

と、言って、実際に恵樹をあえて無視して、一緒の登校班なのに、登下校を一緒にしなかった。

同じ幼稚園から同じ小学校に来た朋華などは、

「どうして。わたしなら、一緒に帰るのに」

と、不思議そうだった。

「わけがわからない。わたし、頭の悪い男は嫌い」

香菜は朋華を睨んだ。それ以来、朋華との関係も悪くなり、クラスの女子に、朋華が話したのか、クラスの女子とも、関係が悪くなっていった。

臍を嚙んだが、今更、どうすることもできないと思うと共に、恵樹に対する『可愛い』だけではない女子の声が聞こえてきた。

「いつも片づけを手伝ってくれる」

「お弁当を食べるとき、いつもランチョンマットを敷いて笑顔」

「いつも楽しそう。一緒にいると楽しいよ」

要するに、優しくて笑顔で楽しく過ごせるということだった。

香菜にとって、それらの要素はどれも不必要だった。優しさも、笑顔も、楽しさも、必要ではなかった。なんでもできる香菜にとって、優しくされる必要もないし、笑顔なんて一文の価値もなかったし、楽しさなんて無価値だった。

でも、ふと気が付いた。自分以外の女子は、そこに価値を見出していて、そこに馴染めない自分を白い目で見ているということに・・・。
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