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路地裏文化研究会
第1章 路地裏文化研究会
 「お見受けするところ、〇〇女子大ですかな?」
 「あ、はい、そうです」
 「場所柄、〇〇女子大のお客さんも多いんですよね。年度はじめは教科書がよく出るんですよ」

 やっぱりわたしは、中村さんにはお客として認知されていなかったようでした。ここで本を買うことは、わたしにとっては一大事だったのに、中村さんにしてみれば、ただの一瞬のやり取りでしかない…考えてみれば当たり前のことなのに、ここに来るのを数日ためらっていた自分が、少し滑稽に思えました。

 そう言いながら、今更ながらお店の中を見渡します。入り口のガラス戸の向こうに通りを歩く人々が見えます。今まで、このお店でわたしと同じような女性客を見たことはありません。いたとしても、わたしと同じ棚に手を伸ばす人はいないでしょう。

 「文学部かな?」
 「あ、はい、当たり…です」

 自分のプロフィールを少しずつ露わにされて、何だか一枚ずつ衣服を脱がされていくような気持ちになります。

 「じゃあ、きっと本を読むのが好きなんだね。どんなのが好きなの?」
 「どんなの…」
 「好きなジャンルとか…あるんでしょ? 教えてくれたら揃えておくようにするから」
 「好きなジャンル…」
 
 わたし、もう名前も住所も大学も学部も知られてしまって、もう下着だけになっているぐらいの気持ちなんです。折角のご厚意でしたけれど、好きなジャンルは…やっぱり言えません。

 「あ…ありがとうございます」

 何か適当なことを言えばよかったのかもしれません。でも、そういうことは躊躇われました。わたしは改めて、中村さんが、わたしが何回かこのお店で本を買っていたことを覚えていないことを確信しました。そんなものか、とも思いながら、地方にはない都会のよさみたいなものを感じたのでした。

 でも、これだけ自分のことを知られてしまったからには、もう密かな愉しみを充たすためにこのお店を使うことはできません。都合のよいお店でしたが、ここには〇〇女子大の学生も来ているらしいですし、お店はまた別に見付ければいいと思いました。何より、新たに見付けた愉しみの方が、わたしには魅惑的に思えましたから。
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