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切り裂かれた衣
第4章 初めてのデート
 衣美は匠のアパートの前でムーヴを止めた。

『着いたよ!』

 そうメッセージを送るとすぐに既読がつき、数秒後には匠が二階の部屋から降りてきた。

「おはよう、お兄ちゃん」

「おはよう、衣美」

 匠は笑顔で助手席に乗り込んできた。今日は黒いジャケットに白いシャツ、ジーンズという服装だった。

「それじゃあ、行こっか」

「うん、悪いね。運転任せちゃって」

「いいの、いいの。そんなの気にしないで」

 衣美は胸を叩きながら「任せなさい」と笑った。

 ムーヴを発車させながら衣美は助手席のドリンクホルダーに置いてあるお茶のペットボトルを指差した。

「それ、飲んでいいからね」

「流石、気が利くね。ありがとう」

「ふふっ、なんかさぁ」

 衣美は前のめりになりながらハンドル操作をしてクスクスと笑った。

「な、なに?」

 匠がお茶を飲みながら怪訝そうな顔をすると衣美はその表情を見てまた笑った。

「お兄ちゃん、あの頃なんか、モジモジしてたところ多かったのに、今じゃ大勢の前で告白するし、私に向かって『気が利くね~』とか。ふふっ、男になったね~」

 衣美は肘で匠をつつきながらからかった。からかいながらも衣美は匠のその成長にどこか嬉しさが込み上げていた。

「なんだよ、もう……危ないだろ」

「大丈夫だって。これでも運転の上手さには自信あるんだから」

 大学でも共に過ごす時間が増えたことで、衣美はお互いに親しみを持って接することができるようになったと思っていた。正直、匠をからかうことも楽しいし、一緒にこうしていれることが嬉しい。

「デートってさ、こんな感じでいいのかな」

 衣美はふとそんなことを言った。

「ほら、私初めてだから……デートって」

 衣美は頬を染めて、恥ずかしそうに言った。匠の方は見ずに前だけを見て。それは安全運転を心がけているのはもちろんだが、匠に恥ずかしそうな顔を見せるのが照れ臭かった。

「それは俺もだよ。だからさ……」

 匠も窓の外を見ながら呟くように口を開いた。

「今日は……いい日にしよう」

「うん……よろしくね」

 衣美はムーヴを走らせながら胸がドキドキして、その鼓動が匠に聞こえるのではないかと思い、また顔を赤らめていた。


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