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独りの部屋
第6章 川音にとけて
月が、川面に揺れていた。
静かな音を立てて流れる水と、かすかな湯けむり。
露天風呂のぬるめの湯に、私たちは肩まで浸かっていた。

「気持ちいいね」
そう言って、彼が私の隣に寄る。
湯のなかでふわりと手が伸びてきて、私の指を絡め取った。

「こっち、向いて」
囁かれた瞬間、唇が頬に触れた。
ぬるくて、熱い。
湯と彼の体温が溶け合って、どちらの熱かわからない。

肌と肌が触れるたび、川音が遠ざかっていく。
世界には、彼の吐息と私の鼓動だけ。

「ここ、こんなに敏感だったっけ」
湯のなかで撫でられた太腿に、じんと甘い刺激が走る。
声を出すのも憚られて、唇を噛んだ。

その表情に、彼は少し意地悪な笑みを浮かべる。
「もっと気持ちよくなるよ」
言葉どおり、指先が深く潜ってくる。

湯の音に紛れて、水が跳ねた。
吐息が、声が、抑えきれず洩れていく。

夜風がひとすじ吹いて、濡れた髪を揺らした。
けれど身体の奥は、まだ冷める気配を見せない。

月が見ていた。
誰にも知られない、ひとときの熱を――。


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