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誰にも言えない回顧録
第3章 28歳 大学職員~続編
その日。
場所をふまえて装うことも考えたが、気負い過ぎてもみっともないといつものスーツ姿で出向いた。

予約されていたのは薄いリネンで仕切られたハイバックのボックスシート。
おかげで人目が気にならず、リラックスできた。

形ばかり、と注文してくれたグラスワインでお祝いの乾杯。
初めてのアルコールは、ほんの少し含んだだけで私の頬を上気させた。
上品に運ばれてくる料理はどれも手の込んだ美味しいものばかり。
食後のコーヒーをいただく頃にはもうすっかり満腹だった。

ひょっとしたら、彼にとってそうした食事はさして特別なものではなかったのかもしれない。
でも私にとっては恐れ多過ぎる時間。
彼の笑顔に接しているとついそのまま流されてしまいたくなるが、私からどうしても伝えておかなければいけないことがあった。

自然と会話が途切れたところで、私は切り出した。
ここまでご厚意に甘えて図々しくお世話になりっぱなしでいたこと。
そのおかげで人並みに就活のステップを進むことが出来て本当に喜んでいること。
どれだけ感謝しても感謝しきれない、と心から思っていること。
その上で。
お礼がしたい。
でも。
どうすれば受けた恩に見合ったお礼が出来るのか、見当もつかない。
何か私からお礼をさせてもらえないだろうか。
私に出来ることなら何だってする。
教えてほしい...

不謹慎な話であることはわかりきっていた。
具体的なことは何も言ってはいないが、意図するところが何を指してしまうのかは明白な話なのだ。

わずかに表情を強張らせた彼は、穏やかに聞き終えると静かに答えた。
そんなこと気にしないでください
今日はこれでお開きにしましょう
大丈夫、これからも活動は続きますし応援していきますよ

私はひどく狼狽した。
彼が嬉々として私の提案に乗るとまでは思わなかったが、何かしらの見返りを求めてはくれるはずだという淡い期待を持っていたのに。
ひょっとして彼の気分を害していたなら。
これっきりもう会わないと言われてしまったなら。

なりふり構っていられない、追い込まれた気持ちになってしまっていた。
店内にはピアノのBGMが流れ周囲から耳を欹てられる懸念はなかったが、私は静かに押し殺した声で食い下がった。
私では..お礼になりませんか?

視線が交錯する直前の、ほんの一瞬。
彼の視線が、私の胸元を盗み見ていた。
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