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第32章 再会

「不倫・・・。子供もいないんだろ。後腐れもないし、俺と・・・って無理だよな」

と、実雅子を見つめながら話す佐川。

「え？」

この反応は想定外だった実雅子。戸惑いつつ、

「無理よ。夫婦ってアレだけじゃないから」

と、笑った実雅子。

「そうだよな。しがないハウスメーカーの営業じゃ、開業する歯科医の旦那さんとは比べられないものな」

と、苦笑する佐川。

「そういう意味ではないわ」

実雅子が首を振ったが、

「いいんだ。わかっているから。俺が悪いんだ。何度もチャンスをくれたのに、そのたびに、俺が・・・」

と、俯く佐川。

「終わったことを悔いて始まらないわ。前を向いて歩くしかないと思うわ」

と、実雅子は佐川を励ました。

「それくらい、わかっているさ。ずっと前からな。でも、今、ここでお前に会って、それが無理だと悟ったんだよ」

と、嘆く佐川。

「え？どうしたの？」

と、素っ頓狂な声を出した実雅子。

「どうしたのじゃないよ。予想以上にお前がいい女になっていたからだよ」

真面目な表情で話す佐川に、

「そう？予想以上？どんな感じを予想していたの？」

と、真面目な表情の佐川とは反対に、笑いかける実雅子。

「真面目に話しているんだ。真面目に聞けよ。小学校の三年生で、お前と同じクラスになって、俺は、初めてお前を知った。『こんな可愛い女の子がこの小学校にいたんだ』くらいの気持ちだった。でも、俺の性格は知っているだろ。自分の気持ちに正直になれないから、敢えて避けていた。それが、一年先に入塾した〇学園で同じコースにお前が入ってきた。内心、ラッキーだと思った。『小学校の教室だけじゃなくて、ここでも一緒になれるなんて』って。でも、俺の口は、素直じゃない。知っての通りの態度しか取れないし、口を開けばあんな感じだった。いつもそうだ。俺は、好きなのに、好きだと言えなかった。でも、今は、その反省を生かいして、正直に言うよ。お前は、いい女だ」

佐川が熱く語り続ける様子を、言われた通り真面目に聞く実雅子。その様子を見て、

「いい女だけじゃない、いいヤツだよ。お前は」

と、言って、言葉を切った佐川。真面目に聞いたうえで、内容を処理できずに、戸惑っている実雅子。