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第30章 ホスト社員

「そういう事情があったのか」

と、重村定勝が合いの手を入れると、

「それだけじゃないんですよ。アイツ、中学になって、2学期のある日、たぶん、○○女学院中学の創立記念日か何かだったと思うけど、俺が学校が終わって、校門を出たら、立っていたんですよ。わかっていました。俺に会いに来てくれたって。でも、俺は、黙ってアイツの横を通り過ぎた。変なプライドだったのかな。それとも、変な慰めを言われたくなかったのか、男子校だったから、周囲の視線が気になったのか。覚えていないが、自分の心に正直になるべきだった。でも、なれなかった。本当は、嬉しかったくせに、強がったのかもしれない。通り過ぎた後ろから『佐川くん』と、俺を呼ぶ声がしたのに、同級生が『おい、呼んでるぞ』って言って教えてくれたのに、俺は『あんなヤツ、知らないよ』って言って、アイツを傷つけた。だから、アイツが誰と結ばれようと、将来を誓ったからなんて、言える立場じゃない」

と、佐川がしみじみと思い出しながら結論まで話した。

「なるほど。しかし、それでも、篠崎さんの話に乗ったのはどうしてだ？」

重村定勝が聞いた。

「話？アイツを寝取るって話か？」

と、佐川が確認した。

「そうだ」

と、重村定勝が佐川の顔を真っ直ぐに見て聞いた。

「俺は、アイツに会って、謝りたい。あの後、一度、会う機会があったのに、俺は、アイツに謝れなかった。心の中では何度も謝っていたのに、言葉にならなかった。だから、今度こそは謝って、許してもらいたい。許してくれないかもしれないと思っていたけど、結婚したのなら、許してくれそうな気がする。そのうえで、今の結婚生活が不満なら、満足させてやりたい。セックスレスで欲求不満なら、俺が満たしてやる。旦那がいようがいまいが、俺には関係ない。妻を満たせない男に旦那を気取る資格はないからな」

と、佐川が嘯いた。気障っぽい言い方だったが、本音だと男たちは感じた。

「言っとくが、取り返したいとか、そんなじゃない。罪を償いたいのさ。あのとき傷つけたアイツに謝って、あのときの穴埋めをしたい。だから、アイツが望まないなら、無理にするつもりはない。満たして欲しいと言われない限りは、無理にとは言わないつもりだ」

佐川は説明した。