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なりすました姦辱
第2章 制裁されたシングルマザー


 澄んだ、しかし厳しい声が室内に放たれた。

「ね、コレ、どこかの学生のレポートかしら」

 資料を投影していたタブレットがテーブルに置かれ、爪先で数度叩かれる。会議中は背凭れは使われず、背すじを伸ばしたまま発せられるのは耳心地の良い美声だったが、その声色に僅かでも不興が滲むと、気圧されない者はいなかった。少なくとも、涼子の率いるグループ配下の者は、上司以上に背すじを正さずにはいられない。

「事業戦略も情報戦略も、何ひとつ腹落ちしているとは思えないわね」
「いえ、そんなことはありません。ちゃんと分析しました」

 説明を聞きつつ資料を先読みした涼子に、開始2分で打ち切られてしまった若手は委縮しながらも食い下がったが、

「まさかあなたの言う『分析』って、クライアントの担当者が出してきた企画書とか、調査会社が出してるマーケット予測とかを読むこと? あんなの手前勝手な理想像と見込数字しか書いてないっていうのは知ってるわよね。彼らを取り巻く業界全体の状況、見通し、競合の戦略……あらゆることを多面的に評価してこその分析でしょう? もちろん、グローバルな視点でね。たとえば付帯資料では南米の工場の業績はいいように見えたけど、じゃ、あの国の今と、これからの政治情勢って、クライアントにとってどんな影響があるのかしら。プラス? マイナス? 数字で答えてみて」
「えっと、それは……」
「相手の意向に迎合した資料作って仕事した気になってるなら、即刻やめてちょうだい。それとも……」

 涼子はテーブルの上で両手を重ね合わせ、彼を冷ややかに見つめた。

「もし能力の限りでこのレベルなら、自分の今後のキャリアについて真剣に考えたほうがいいわね。少なくとも、ウチの部門では追いていけなさそうだから」

 その言葉に顔を強張らせたのは、言い渡されている彼だけではなかった。

 実力至上主義の総合コンサルティングファーム、しかも花形たる企業経営コンサルティングを主管としている部門とあっては、高い能力と弛まぬ自己研鑽が求められて当然だった。出席者全員に時間を割いてもらっているからこそ、彼らの前で叱責される。そして厳しい言い回しが選ばれるのは、グループメンバー全員に常に意識を持って欲しいからだった。この理由もまた、涼子から事あるごとにメンバーに周知されている。
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