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なりすました姦辱
第1章 脅迫されたOL
 幸い、駅に着くまでに警官が追い付いてくるということはなかった。しばらくどこかで時間を潰し、また自宅に戻ってみようかとも考えたが、やはり、土橋があの学生マンションを特定できている可能性のほうが薄いと思われてきた。土橋の居所を探すのなら、もっと別の場所のほうがよさそうだ。

 そうして保彦は、都心へと戻る西武線に乗ったのだった。

 相変わらず、子供たちはうるさい。

 苛立ちの根本原因は、愛梨の意外な無反応、そして徒労による疲れ、更には、もう一つの災難に襲われていたからだった。

 定期券に残ったPASMOの残額と、財布に残った小銭、上野まで戻ると、これら合わせても百円を切る。携帯のどこを探しても電子マネーは見つからず、クレジットカードはあるが、ライブチャットに相当つぎこんでいたから限度額が心配だ。そもそも、土橋と言う男がどれだけの財産を持っているのかがわからない。

 何をするにしても、当面の「現ナマ」がなければ、不便、不安が極まりなかった。

 西武線の中で考えてみた。
 土橋を探すとしたら、他にあるか?

 自宅のように、明確な場所は、無い。
 だが、手がかりを得られるかもしれない場所は……、ある。

 資金難という、別の理由もできた。

 保彦は高田馬場を通り過ぎ、終点まで乗った。

 西武新宿──二日前の朝、本当は自分はここにいるはずだった。

 JR新宿を迂回して目的の高層ビルへと向かう。

 エレベーターホールの前では警備員が仁王像のように通路を挟んで立っていたが、ゴミ山にあったビジネスバッグから汐里のものと同じデザインのIDカードを見つけ出しており、それを首に提げると、会釈でもって通過を許された。

 高層階行きのエレベーターの前で待つ。一基のドアが開き、身綺麗な装をした同じビルに入る上流企業のサラリーマンたちが降りてくる。彼らは見すぼらしい中年男を見かけても不審がることなく、ここでも、首のカードが免罪符になったようだった。
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