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なりすました姦辱
第4章 隔絶された恋人

2
アレか。
助手席からフロントウィンドウを見上げると、曇った夜空に巨大建造物が迫り上がってきていた。
「こんなでっかいホテルでお祝いするなんて、汐里の家も豪勢だな」
「米寿だからね。殆どの親戚が集まるんじゃないかな。田舎の人間はこういうイベント事に顔出さないと色々うるさいし。……あ、その手前のところでいいよ」
「いや、車寄せまで入れるよ」
「いい。フツーの乗用車横づけしてんのに、ドアマンに開けてもらったら恥ずかしい」
「悪かったよ、フツーの乗用車で。次乗り換える時は汐里が気に入るやつにするからさ」
彼氏は自嘲めいて笑い、国産ハッチバックを疎らな駐車場に駐めた。
「でも、ありがとう。こんな遠くまで送ってくれて」
「帰りは?」
「たぶん、親戚の誰かが車で来てると思うから大丈夫」
サンバイザーを下ろして裏の鏡で前髪とアイメイクを確認し、時間を見たスマホをバッグに仕舞って腰を上げようとしたところで、
「汐里」
運転席から身を乗り出され、顔が近づいてきた。せっかく整えた前髪が乱れそうなので、押しのけて車を降りることもできたが、汐里はシートに凭れたまま、やや彼のほうへ首を傾いでやった。いつもより少し強めに押し付けられ、少し長めに接してから、離れていく。いつも彼のどこかに添えてやっている手は、ホワイトのシフォンスカートから上げなかった。
「……ちゃんと返事してくれよ」
「わかってる。そんなに不誠実な女じゃありません」
「ああ。愛してるよ」
「ん。……で、どう? 今日の服、変じゃない? メイクもイケてるかな。親戚ウケのいい、都会で働く綺麗なお姉さん、って感じにしてるつもり」
「ああ、俺にはもったいないくらい、キレイだ」
よろしい、と言って、汐里は車を降りた。
車を背に、エントランスへ向けて歩き始める。彼氏がまだ後ろから見守っているかもしれないのに、自然な所作を装って甲で軽く唇を拭った。
ホテルに向かう前に少しドライブをして、その途中の見晴らしのよい丘でプロポーズをされた。その瞬間、照れ4、戸惑い3、喜び2くらいで表情筋を操ったが、残りの1は恥じらいくらいが穏当であったのに、どうしても、落胆がそこに嵌ってしまった。彼氏にどこまで見破られただろうと危ぶんでいたが、いましがたのキスで、おそらく1%も気づけていないと判断された。
アレか。
助手席からフロントウィンドウを見上げると、曇った夜空に巨大建造物が迫り上がってきていた。
「こんなでっかいホテルでお祝いするなんて、汐里の家も豪勢だな」
「米寿だからね。殆どの親戚が集まるんじゃないかな。田舎の人間はこういうイベント事に顔出さないと色々うるさいし。……あ、その手前のところでいいよ」
「いや、車寄せまで入れるよ」
「いい。フツーの乗用車横づけしてんのに、ドアマンに開けてもらったら恥ずかしい」
「悪かったよ、フツーの乗用車で。次乗り換える時は汐里が気に入るやつにするからさ」
彼氏は自嘲めいて笑い、国産ハッチバックを疎らな駐車場に駐めた。
「でも、ありがとう。こんな遠くまで送ってくれて」
「帰りは?」
「たぶん、親戚の誰かが車で来てると思うから大丈夫」
サンバイザーを下ろして裏の鏡で前髪とアイメイクを確認し、時間を見たスマホをバッグに仕舞って腰を上げようとしたところで、
「汐里」
運転席から身を乗り出され、顔が近づいてきた。せっかく整えた前髪が乱れそうなので、押しのけて車を降りることもできたが、汐里はシートに凭れたまま、やや彼のほうへ首を傾いでやった。いつもより少し強めに押し付けられ、少し長めに接してから、離れていく。いつも彼のどこかに添えてやっている手は、ホワイトのシフォンスカートから上げなかった。
「……ちゃんと返事してくれよ」
「わかってる。そんなに不誠実な女じゃありません」
「ああ。愛してるよ」
「ん。……で、どう? 今日の服、変じゃない? メイクもイケてるかな。親戚ウケのいい、都会で働く綺麗なお姉さん、って感じにしてるつもり」
「ああ、俺にはもったいないくらい、キレイだ」
よろしい、と言って、汐里は車を降りた。
車を背に、エントランスへ向けて歩き始める。彼氏がまだ後ろから見守っているかもしれないのに、自然な所作を装って甲で軽く唇を拭った。
ホテルに向かう前に少しドライブをして、その途中の見晴らしのよい丘でプロポーズをされた。その瞬間、照れ4、戸惑い3、喜び2くらいで表情筋を操ったが、残りの1は恥じらいくらいが穏当であったのに、どうしても、落胆がそこに嵌ってしまった。彼氏にどこまで見破られただろうと危ぶんでいたが、いましがたのキスで、おそらく1%も気づけていないと判断された。

