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わたしの放課後
第16章 何もなかったみたいに
 今日はおじさんのお店に寄る。薄暗いけどいつも居心地のいい棚の間で、わたしは本を手に取ってはぱらぱらとめくっている。

 「お茶、どうぞ」
 「ありがとうございます」

 おじさんがお茶を淹れてくれる。お邪魔するのはなんだかとても久しぶりなような気がする。

 「すみません。ご無沙汰してしまって」
 「いえいえ。こちらこそ。謝られるようなことは何もないよ。便りのないのはいい便りって言うから、心配していなかったけど。恵子ちゃんも、かわりなく?」
 「はい。おかげさまで。わたしはかわりなく」

 『わたしは』と言ったからだろうか、おじさんはニッコリと微笑む。

 「お家の方はどう?」

 わたしが話したがっていることを話しやすいように、おじさんが水を向けてくれる。わたしはおじさんに、母に新しい知り合いができたことを話した。

 「面白いね。新しい知り合い、って。よくわかるけど」

 確かにそうだ。新しい恋人でも友人でもなく、新しい知り合い。面白いというよりはおかしい言い方だと思うけど、恋人や友人という言葉よりはしっくり来るからそう言ってみた。そんな気持ちもおじさんはわかってくれている。

 「そう、恵子ちゃんがいるとわかっていてもお家でその方と、ね」
 「そうなんです。別に、その、わたしはかまわないのですけど」
 「女同士、おかあさんは恵子ちゃんのことを信頼しているんだね」
 「『信頼』なのかどうかわからないけど…、ただ開き直っているだけなような気もします」
 「悪びれていらっしゃるわけでもないから、そう見えるかもしれないね」
 「ええ。まるで何もなかったみたいに、一緒に晩御飯も食べました」

 そう言って、自分でも少しばつの悪さを感じた。わたしとおじさんのことを母に話したことはないし、今日も、わたしはまるで何もなかったみたいに母と一緒に晩御飯を食べるのだから。

 「じゃ、今日は本だけ持って行く?」

 おじさんが優しく訊ねる。意地悪っぽくでもなく、ただ穏やかに。わたしは首を横に振る代わりに、おじさんの肩に頭をのせた。

 「おじさんのおかあさんもそういう人だったよ」
 「そうなんですか」
 「そういう人だった、というよりは、そういう時代だった、っていう感じかな。でも、いつの時代でもそういうものじゃないかなって思う。じゃ、ちょっと準備してくるね」
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