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わたしの放課後
第14章 母との会話
 母は笑顔のままで言った。

 「そんなことないわ。オンナに戻れたんだから」

 まだ高校生の娘に言うことかなって思ったけど、わからないふりをして(オンナに戻れたって、どういうこと?)とは訊かなかった。訊かないとおかしいと思われるかもしれないって思いもしたけど、でも訊かなかった。わかっているのかどうかもわからないけど、なんとなくわかってはいるつもりでもあるから…。

 わたしはごはんを食べ始めた。母も席について、おかずの焼き鮭をお箸でほぐしている。母が呟いた。

 「シャケと一緒よ」
 「えっ?」 
 「放流して、また成長して戻ってくればそれでいいじゃない?」
 「放流って…」

 わたしは言葉を喪った。母が彼に敢えて自分のもとから離れるように言ったとは思えない。彼に戻ってきて欲しいという未練があるに決まっている。

 「だから何曜日は彼が来るとか、もう気にしないでくれていいのよ」
 「うん…」
 「そのかわり…」
 「うん。なに?」
 「お家に帰ってきたとき知らない男の人がいても気にしないでね」

 父に秘密にしなければならない出来事はこれからも続くようだ。わたしはむしろそのほうがいいと思った。母も父のことを嫌いなわけではない。ただ、からだの相性というものはきっとあるのだろうということ。ただ、それだけ。

 「気にしないけど…心当たりはあるの?」
 「ないわよ、そんなの」

 母が笑った。わたしも笑った。「知らない男の人」が、これから何人いたとしても、それは、母がオンナとして生きている証のようにも思えたから。

 この話をおじさんに聞いてもらいたいとちょっと思った。でも、そうしたら、おじさんは、男の人はおじさんしか知らないわたしを「放流」させようとするんじゃないか、って思った。(いつかそういうときが来ると思っていたんだよ…)なんて言いながら。
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