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溶け合う煙のいざないに
第3章 欲望の赴くままに

 その大きな胸板を寝ころんだまま小突いた。
「想像で犯すな」
「いやっ、うん。え? その、いいってことだよね」
 やっぱ一服挟むべきか。
「だよね?」
 焦りの追撃に頭を掻きながら肯定する。ブックカフェの最寄りの小奇麗な手洗いは、何度か仕込みで使用したことがある。ハンドソープが一度も切れていないのが好都合なのだ。
「や、ば……緊張してきた、っ、心臓破裂しそう」
 きっと頭の中を覗いても同じ言葉がぷかぷか浮いているのだろう。少しは言葉を飲み込めないのかと過るが、それが興奮を駆り立てる特性でもあるのを思い出し、指摘を控えた。
 ちらっとライトを見上げた遥望が、スイッチに手を伸ばし光量を強めた。
 こちらも起き上がり、あぐらをかいてそれを見守る。
「どっちが久々?」
「うーん……最後は、確か、あれ……うん、確か上」
「じゃあ手順は大丈夫か」
「馬鹿にしてるわー。そういうとこも刺さるんだけど」
 軽口は距離がゼロになる前の暇つぶし。目の前で膝立ちになった遥望が、震える指で唇に触れてきた。緊張がうつるだろ。
 親指の腹を押し付けるように下唇をずらされる。歯でも眺めたいのかとされるがままでいたが、恍惚とした表情にぞくりとする。
「オレね……仕事中ずっと想像してた。ずっと……どんな風にいじめてくれるかなって。それと……鐘二さんの顔がどう歪むのかって」
 左頬の内側に差し込まれた指が肉壁にめり込む。やめろと手首を掴むが、微動だにしない。ぐるりと指を回しながら上の歯列をなぞられる。触られたことのない奇妙な感覚に背中に冷たいものが走る。今のまま喋ったところで呂律が回らないので、諦めて黙って見守る。
 ほかの指は髭の感触を楽しむように顎を緩く撫でて、それもくすぐったい。唾液が伝ってくるのもお構いなしに、前歯の隙間を押し上げて入ってこようとする。けれど簡単には受け入れられない。
 口を開けばいい、それだけだが、何とも服従的で抵抗に力がこもる。このままこの指を舌で迎え入れてしまったら、何かが絶対的に変わってしまう気がする。
「開けてよ」
 かといって強引に指を噛んで傷つけるのも望んでいない。浅い息が狭い咥内でのたうつ。あくまで力づくで侵入するつもりはない、こちらを待っている。
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