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溶け合う煙のいざないに
第3章 欲望の赴くままに

 あ……うそ、うそ。
 甘い痺れが徐々に収まる数秒に絶望に塗れて見上げると、荒く息を乱しながら、鐘二が熱い掌を腹に乗せた。それがあまりに熱いから、びくんと反応してしまう。
 なんて言われるのかが怖くて目を閉じると、吐息のように溜息を吐きながら手を肋骨の方に滑らせて、そっと片手で抱きしめてくれた。
 反対の右手は脚を掴んだまま、まだ終わる気はないと安心させてくれる。
 あ、髭が頬に当たるのさえ嬉しい。
 互いの呼吸音が鼓膜を濡らす。
 シーツに鼻を押し付けて呼吸を整えた鐘二が耳元に口を近づける。
「……ちゃんと口に出せって」
 穏やかな声音が、やけに深く刺さる。
 抱きしめてほしかった。
 けどそれ言ったら止まっちゃうじゃん。
 面倒くさいって思われるじゃん。
 呼吸が浅くなるのを誤魔化すように、目を伏せて、そっと頷いた。
 脚を掴んでいた手が脇腹からぎゅっと背中を抱きしめる。包み込まれてふわっと温かい湯船にいるみたいに居心地がいい。おそるおそる広い背中に手を回す。
 でもちゃんと繋がったそこは全然緩んでなくて、塊のまま。
「なに? 始まったら喋れなくなんの」
「違っ」
「あんな寂しい顔で睨んで……見掛け倒しですねえ、先輩」
 顔だけ起こして見下ろしてきた腹立つ笑顔に、やっと言の葉が溢れ出る。
「なっ、だから! わかってよ、オレ今いっぱいいっぱいなの! 逃したくないの、鐘二さんのこと。呆れられたくないし、合わねえとか思われたくないし」
 好みど真ん中の男に向かって、何を言ってるんだオレは。
 自分の声が浮いて聞こえるし、首筋が冷たい。
「恋人みたいな責め方する癖に……顔が遠いんだよ」
 冷蔵庫の重低音が床を伝って響いている。
 喉の渇きを煽るみたいに。
「そうか」
 感情が読み取れない短い返事に次の言葉を待つと、汗に湿った肩が小刻みに震え出した。
 笑ってるわ、この人。
「ちょ、オレ本気で」
「本気で好きになってくれたんだ」
 ああ本当に間抜け。
 伝わらないわけないじゃん。
 ベッドの上に言葉なんて不要なんだから。
 声にならない低い呻きを鐘二の肩に押し付ける。
 やだ、もう顔も見たくない。
 失敗した。
 年長者のメンツなんてゼロだ。
 あれ、でもなんで……
 まだ硬いままなの、この人。
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