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波の音が聞こえる場所で
第9章 安奈という女について
 久須美がまた事務所から顔を出していっちゃんに余計なことを言いやがった。おのれ!久須美ただでは済まさん! 
 まとまりかけた僕といっちゃんのお風呂契約を土壇場で破断にしやがって、それにいつまでも紅白歌合戦ごっこなんかするな! 事務所は事務所なんだ。楽屋って、いつからあんたは芸能人になったんだ!いやいや落ち着け、冷静になるんだ坂口翔。
「最悪さ、僕といっちゃんで賛美歌でも歌おうか?」
 冗談のつもりで僕は言ったのだが、いっちゃんが固まる。あっ!やばい、まずいことを言ってしまった。
「歌います」
「歌えるの?」
「幼稚園、小学校でたっぷり歌ってきました」
「そうなの」
 当たり前だ、いっちゃんが浄土真宗大谷派の寺の息子だからと言っても学校の音楽の先生は容赦しない。
「先輩、ジョンレノンのハッピークリスマスとかどうですか?」
「いっちゃん、ジョンレノン知ってんの?」
「はい」
 何だかいっちゃん渋い。
「じゃあ、ジョンレノン探そうか?」
「はい」
 いっちゃん、めちゃくちゃいい返事。
 が、ジョンレノン見当たらず。このままではアンハッピーなクリスマスがやってくる。そして今現在白組不利。
 賛美歌くらい歌ってやる。でも河口の端のちょっと高いところにへばりついているリサイクルショップにやってくる客は、店員が歌う賛美歌なんか期待していない。ていうかそんなことをしたら、きっと誰かが僕といっちゃんの歌う姿をスマホに撮ってSNSにあげるだろう。
 そして僕といっちゃんは一躍有名人になるのだ……なれるはずがない。なぜならそういうやつらに限ってフォロワー数が少ない。誰がそんなやつらのSNSを気にする。
 ちょっと待て。僕はとても大切なことを忘れている。何を忘れてるんだ坂口翔。思い出せせば、僕といっちゃんが所属する白組はこの窮地から脱することができるのではないか(大した窮地ではない)。
 目を瞑る。おお、かっこいいじゃないか坂口翔。
 あっ! 何のために僕はR大学に行ったんだ!確かRってミッション系の大学のはずだ。ミッション系からのキリスト様からの……賛美歌だ!
 絶対に歌っている。ひょっとしたらJR池袋駅前あたりで蝋燭とチリンと鳴る鈴なんかを持って、でもって純白のガウンなんかを羽織って歌っている。賛美歌は寒ければ寒いほどいい。池袋より新潟だ!
 そうだ、やつらを呼べばいいんだ。
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