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波の音が聞こえる場所で
第9章 安奈という女について
でも待て、こんなんじゃあまりにも情けない。僕はこの地獄のような雪国でどれだけの人に助けられたのか。新幹線駅近くのコンビニの人たち。あの二人の餞別で僕は何とか空腹から逃れることができた。僕はまだ生きている。
弥彦駅で「はいビタミンC」と言って僕なんかにミカンをくれたおばあちゃん。朱雀市の病院に向かうおばあちゃんを見送りながら僕は泣いた。僕はあのおばあちゃんがいつまでも元気でいられるように今も願っている。
そう言えば弥彦の温泉で僕に話かけたやつがいた。湯口の上に鎮座していた狸。あの狸、僕に何て言ったっけ?
偶然と奇跡なんて紙一重だ。今の自分の状況の捉え方次第でどちらにも転がる。だから僕はこう思うことにした。これは間違いなく奇跡だと(ただし久須美は除く)。僕みたいな惨めな男を先輩と呼んでくれるいっちゃんにも出会えたし、アマゾンの段ボールの中には川中美幸さんもいたし。空腹と寒さには耐えなければならないが、まぁ、それだって何んとかなる……と思う。
「あっ、それから坂口君さ、お風呂行ってよね。何だか楽屋にはいつもと違う匂いが漂っているよ。絶対、紅組文句言うからさ。それにうちは客商売をしているわけで、店内に異星人のような匂いが充満していたら、すぐにSNSに上がるでしょ。あの店、宇宙人がいるぞ、みたいな。それまずいよね。頼むよ、坂口君、お風呂ね。飛燕のお風呂は坂口君を待ってるよ」
異星人の匂いって何だよ。僕の体から空気中に放散されている、いわゆる体臭というやつは香しい香りをしているんだ。こ汚いおっさんと一緒にするな!という目を事務所の方に向けたら……。
「白組がんばってよ。クリスマスなんだからね」
と久須美が事務所から顔を出して僕といっちゃんにそう言った。
こうなればちゃっちゃっとクリスマスを箱の中から探してやる。そしてそのクリスマスをアマゾンから1万円で買ったメイドインチャイナのカセットで鳴らして、壊れている(一部が)SONYが1970年代に作ったラジカセを売る。何とも妙な話だ。だがやらねばならん。
「先輩、うちの寺に来てうちの風呂に入りませんか?」
「いいの?」
「構いませんよ」
「ありがとう。いっちゃん、じゃあ遠慮なく」
話がまとまりかけたそのとき。
「いっちゃん、坂口君をお風呂に誘ったらだめだよ。坂口君、冒険の途中なんだからね」
弥彦駅で「はいビタミンC」と言って僕なんかにミカンをくれたおばあちゃん。朱雀市の病院に向かうおばあちゃんを見送りながら僕は泣いた。僕はあのおばあちゃんがいつまでも元気でいられるように今も願っている。
そう言えば弥彦の温泉で僕に話かけたやつがいた。湯口の上に鎮座していた狸。あの狸、僕に何て言ったっけ?
偶然と奇跡なんて紙一重だ。今の自分の状況の捉え方次第でどちらにも転がる。だから僕はこう思うことにした。これは間違いなく奇跡だと(ただし久須美は除く)。僕みたいな惨めな男を先輩と呼んでくれるいっちゃんにも出会えたし、アマゾンの段ボールの中には川中美幸さんもいたし。空腹と寒さには耐えなければならないが、まぁ、それだって何んとかなる……と思う。
「あっ、それから坂口君さ、お風呂行ってよね。何だか楽屋にはいつもと違う匂いが漂っているよ。絶対、紅組文句言うからさ。それにうちは客商売をしているわけで、店内に異星人のような匂いが充満していたら、すぐにSNSに上がるでしょ。あの店、宇宙人がいるぞ、みたいな。それまずいよね。頼むよ、坂口君、お風呂ね。飛燕のお風呂は坂口君を待ってるよ」
異星人の匂いって何だよ。僕の体から空気中に放散されている、いわゆる体臭というやつは香しい香りをしているんだ。こ汚いおっさんと一緒にするな!という目を事務所の方に向けたら……。
「白組がんばってよ。クリスマスなんだからね」
と久須美が事務所から顔を出して僕といっちゃんにそう言った。
こうなればちゃっちゃっとクリスマスを箱の中から探してやる。そしてそのクリスマスをアマゾンから1万円で買ったメイドインチャイナのカセットで鳴らして、壊れている(一部が)SONYが1970年代に作ったラジカセを売る。何とも妙な話だ。だがやらねばならん。
「先輩、うちの寺に来てうちの風呂に入りませんか?」
「いいの?」
「構いませんよ」
「ありがとう。いっちゃん、じゃあ遠慮なく」
話がまとまりかけたそのとき。
「いっちゃん、坂口君をお風呂に誘ったらだめだよ。坂口君、冒険の途中なんだからね」

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