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波の音が聞こえる場所で
第9章 安奈という女について
「随分盛り上がってるね。でもさ、白組負けてるよ」
 久須美が僕といっちゃんの後ろにいやがった。手に何か持っている。
「白組って何ですか?」
 いっちゃん、いいことを言う。僕も白組の正体を知りたい。
「ほら、紅組を見てよ。もうクリスマスツリー作ってるんだから。白組負けてるでしょ」
 僕は久須美の視線の先にあるものを見た。福さんが一人でもくもくとクリスマスツリーを飾っている。
「ひょっとして白組って、僕らのことですか?」
 僕は久須美に訊ねた。
「そう、ちなみに僕は審査員ね」
 年の瀬、白組と紅組、でもって審査員。久須美のやつ、紅白歌合戦をパクりやがった。
 何が審査員だ、冗談じゃねぇぞ。僕と美幸の甘い時間の中に勝手に入ってきやがって、許さねぇ……? 時代劇みたいになっている。
「ほい、これ使って。こっちのラジカセは使えるから」
 久須美は持っていたラジカセを僕といっちゃんの前に置いた。
「だったらこれを売ればいいじゃないですか? 壊れてるラジカセが十万円だなんてぼったくりですよ」
「はぁ、だから坂口君はダメなのよ。坂口君、本当にR大学で経営を勉強しているの?」
「……」
 だからいちいち僕の母校の名前を出すんじゃねぇよと言いたかった。でも言えない。
「こっちはアマゾンで買った一万円のメイドインチャイナのラジカセ」
 久須美、アマゾンで買い物をする。
「店長、それで何をすればいいんですか?」
 いっちゃん、そんなことこの男に訊かなくていいよと言いたかった。でも言えない。
「その中からさ、クリスマスっぽいもの選んでこれを使って流す」
「曲をかける? ここで? まずくないですか?」
「何で?」
 久須美、不満そうな顔で僕を見る。
「権利とか」
「権利とか、どういうこと?」
「つまりですよ。ここで曲をかけるには著作者の許可を求めないといけないんじゃないですか?」
「だったら坂口君訊くけどさ、ジングルベルって誰に対して許可を求めればいいの? 清しこの夜でもいいけどさ。今ならどの幼稚園でも園児たちが歌っているよ。ジングルベルを作った人って幼稚園児に対して金払えなんて言うと思う? みんながウキウキする季節なのにさ。サンタさんだって幻滅するに決まってる」
 ウキウキしようが誰かが泣こうが、金が絡むと人間は鬼になる、と思う。そしてサンタはジングルベルの権利を持っていない……はずだ。
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