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波の音が聞こえる場所で
第9章 安奈という女について
「新聞と古雑誌の収集日は月に一度。今月はもう過ぎたから収集車は来月にならないと来ないよ 」
 僕といっちゃんは恐る恐る後ろを振り返った。いつの間にか僕といっちゃんの後ろに久須美がいた。久須美の先祖はひょっとしたら忍者なのかもしれない。
「坂口君さ、借金まみれの君に言うのもなんだけどさ、この本は品物なんだ。だからね、この本やレコード、そしてCDがこの店を出て行くときはね、お客さんと一緒に出て行くときなんだよね、もちろんお客さんはお金を払ってね。わかる?」
「……」
 わからない、とは言えないがそう言いたかった。
「借金まみれの坂口君さ、がんばってこの店を盛り上げてよ。君はそのためにいるんだからさ、でないと借金返済できないよ」
「……」
 僕の名字の前にわざわざ借金まみれという不必要な言葉を付ける久須美。絶対この男、布団の上で死ぬことはないだろう。ていうか僕はいつから借金まみれになったんだ。
「はいこれ、助っ人ね」
 日本にやってくるメジャーリーガーみたいな言い方。
「助っ人? 何ですかこれ?」
 僕にはその妙な物体がわからない。
「先輩、SONYみたいです」
 いっちゃんは久須美がぶら下げているこの世に突然現れた地球内生命体を見てそう言った(生きてはいないと思うが。少なくとも僕はその物体が地球に住んでた宇宙人によって作られたもののように見えたのだ。そしてそのSONYは生きていた)。
「1970年代に作られたメイドインジャパンのSONYのラジカセ。知らないの?」
「SONYってゲームのSONYですか?」
「ちっちっちっ、SONYはトランジスタラジオを作った名門企業だよ」
 ちっちっちっ、久須美は右手の人差し指を小さく左右に振った。ときおり若者ぶる久須美に腹が立つ。
「トランジスタラジオって何ですか?」
 いっちゃんが久須美にそう訊ねた。真っ当な疑問だ。
「大昔ラジオには真空管が使われていたんだ。真空管て大きいのよ。でもね、トランジスタを使うとラジオは小さくて軽くなるわけ。わかるよね。小さくて軽いラジオは携帯できる、とう革命を起こした企業だよねSONYは。詳しくはWikipediaで確認して」
 いっちゃんがスマホを取り出してトランジスタラジオを検索し始める。
「十万円!」
 僕は、宇宙人が作った地球内生命体についている値札を見て驚いた。

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