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波の音が聞こえる場所で
第9章 安奈という女について
 五十年くらい前の地球内生命体の金額に僕は驚いた。
「坂口君、もうSONYはね、ラジカセ作ってないんだよ。十万円なんてサービス価格だよ。全国のラジカセファン垂涎の品物なんだからね」
「あり得ません。これ、壊れてますよね?」
 カセット使用できませんという紙が地球内生命体に貼ってある。それにラジカセファンなんて本当に日本にいるのだろうか。
「カセットが使えないだけだから」
「いやいや、カセットが使えない時点で不良品ですよね」
 そこで僕はふと思った。カセットって何? と。
「でもラジオは受信できるし、音もしっかり出ているから問題なし」
「……」
 不良品を売るってどうなのよ、と僕は思ったが今一カセットがわからん。そしていっちゃんはトランジスタについて今も学習中だ。
「賭けてもいいよ、このラジカセ一週間以内に売れるから。これは目玉商品だからね。目玉商品を古本とレコードコーナーに置くからさ。坂口君、がんばってよ。無理だなんて台詞聞きたくないから。坂口君借金だらけでしょ。そうそう、これじゃあ物足りないからカセット持ってくるね。なんてったってもうすぐクリスマスだもん」
 久須美は1970年代に作られたSONYのラジカセを置いて店内の事務所に向かった。このラジカセに入れるカセット。でもカセットは故障している。わけがわからん。それに久須美が言うクリスマスが……きもい。そしてもう一つ、二言目には借金。僕はいつから多額の債務を抱えたのだろうか。
「先輩、何だかトランジスタってすごいですよ」
「どこがどうすごいの?」
「とにかくすごいんです」
「……」
 僕はすごいの先が聞きたかった。いっちゃんだってもっとうまく僕に説明したいと思っているに違いない。でも……でも言葉が見つからないんだ、きっと。
「ほいこれ。この中に未使用のカセットがあるからこれも売るんだよ、年末だよ、十二月は財布のひもが緩くなるんだ。売って売って売りまくってね」
 来るぞ、借金まみれの坂口君という久須美の嫌味。
「……」
 来なかった。事務所に戻る久須美。ぽつんと置かれたアマゾンの社名が入った段ボール。まさかとは思うが、この中に入っているカセットってアマゾンから買ったんだろうか。まさかとは思うが……。仕入れ先がアマゾンだなんて……あり得ない。
 そんなのリサイクルショップを名乗る資格がない。
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