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波の音が聞こえる場所で
第9章 安奈という女について
 久須美に宿題を出されたが、僕にはそれを解く気など毛頭ない。衣料と家電、そして後で聞いた話だが中古のブランド品の販売が好調なのだそうだ。それらの売り上げでこのリサイクルショップ灯台の灯りが辛うじて灯っている。
 だったら、それを売ればいい。古着と中古家電、そして何かのブランド品。売れない古本やレコード・CDに手を広げる方がおかしい。つまり僕の仕事はこの古本とレコード・CDをどう処分すればいいのかにかかっている(売るのではなく)。
 河口の端のちょっと高いところにへばりついているようなリサイクルショップに文学や音楽を求めにやって来るやつなんて絶対にいない。いるはずがない。そんなやつがいたら顔を見てみたい。
 すでに僕の結論は決まっている。本やレコードなんて逆立ちしても売れません。「じゃあ逆立ちして売ってよ」と久須美が言うかもしれないが、このご時世、何でもかんでも売れるものなどない。「それでも売ってよ」と久須美に食い下がられたら、僕も「売れないものは売れない!」と食い下がってやる。
 年末販売作戦会議を終えて僕といっちゃんは、担当を任された売り場に向かった。やがてそこには衣料品か中古の家電が並ぶはずだ。僕は命をかけて進言する。だってそうした方が店にとっては最善なのだから。一応僕は経営学部で勉強してきた……(と思う)。
 処分とはつまり捨てること。さすがに不法投棄はまずい。そんなことをしたら問題は僕だけでは済まない。世間だってリサイクルショップlight houseを許してくれない。僕にはこの灯台に借りがある。この借りだけは返さなけれなばならない。だが古本を売る気はない。売れるわけがない。
「いっちゃんさ、この辺ゴミの取集日っていつなの?」
「これ全部捨てるんですか?」
 大道一直は驚いた顔を僕に向けた。軽蔑は……まだされていない……多分。
「いっちゃん、本が一冊でも売れた日ってあった?」
「ないです」
 大道一直、即答。
「だよね。売れるわけないもん」
「捨てるんですか?」
 いっちゃんの顔が不安で包まれた。仕方なく悪に加担させられてしまうという心の動揺で表情が曇る。やばい、仏の道に進む若者を悪に引き込んでいいいのか。 
 でも売れないんだよ。売れないものは捨てるしかないんだよ。僕の心は悪魔にどんどん侵食されていく。
 僕といっちゃんがぼんやり本棚を見ているとき。
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