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天狐あやかし秘譚
第71章 其疾如風(きしつじょふう)
土門が廟の中心で、式占盤に手をかざす。不可思議な力で式占盤はカタカタと揺れはじめ、微小な光を放っていた。

「国土に つららくものぞ いまししめさむ
 ちはやふる 神々の結ふ 縁(えにし)あらしめ」

地を貫く法則を勧請し、神が結んだ目に見えない縁を辿らせよと祈る。呪言に呼応して、式占盤を中心に白と黄色の糸が湧き上がるのが視える。もちろん、これは術者である土門にのみ視えている光景だ。

糸達は絡み合い、折り重なり合いながら不思議な織物を中空に織り上げていく。土門には、運命というものが、『天』が用意した大きな舞台で偶然と必然、人の意志と心が結ぶ縁が織りなす壮大なタペストリーに視えていた。

彼女はそれを読み取る。本来神々にしか許されない、運命を視る力。これが土門家にどのようにもたらされたかの詳細は不明である。しかし、軽々しく言っていいものでも使っていいものでもないことはわかっている。

だけれど・・・今は、緊急事態、なのです・・・。

お願いします。天帝よ、産土の神よ、人の縁を結ぶ八百万の神々よ・・・私に、私達に、あの娘を救わせてください・・・。

ただ、運命を読むのでは足りない。敵は何重もの方法で、綾音を隠している。それを突き破り、彼女に近づくには・・・。

土門が右手を掲げる。そこから光る糸が何条か中空に浮き上がる。宙を漂い、目の前のタペストリーに絡みつき、織り込まれていく。

一本目・・・これは、自分が彼女と持った縁。
二本目、彼女がこの陰陽寮と結んだ縁。陰陽寮の人々と過ごした時間・・・。
三本目、日暮が先程預けてくれた・・・石・・・アレキサンドライト。同じ力を持つ石は共鳴し、縁となる。

そして、そして・・・もう一本・・・必死に彼女の痕跡を辿ろうとしているあの天狐・・・それが陰陽寮にもたらした情報という縁。

か弱かった糸は撚りあってより太くなり、共鳴して強く丈夫になる。放たれた糸は運命のタペストリーに溶け込み、響き合い、その中に隠された「彼女」を探し続ける。

応えて・・・応えて・・・お願い・・・
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