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天狐あやかし秘譚
第68章 多情多恨(たじょうたこん)

☆☆☆
これを避けるのか・・・
十分気を練って、隙を突いたはずの刺突だった。
そう、彼の槍の穂先は狙い通りなら、京本の喉元を切り裂くはずであり、通常の人間の反射神経では、もはや逃れることができないほどの速度で薙ぎ払われていた・・・はずだった。
しかし現実に起こったことは違った。あり得ない反射速度で反応した京本は、重力を利用して、ふわりと真後ろに倒れ込んだ。結果、本来首があるはずのところが空となり、穂先は虚空を切り裂くことになった。そして、そのまま京本は後ろ手に地面を捉え、ぐいっと身体を伸展させる。いわゆるバク転というやつである。
「なんでぇ・・・バレてたのかい」
暗闇の中、京本のシルエットが大きく膨らみ始める。肩が盛り上がり、脚が伸び、太ももが大きく発達する。胸筋が膨れ上がり、首が野太くなっていった。あまりの急激な身体質量の増加にワイシャツが裂け、上半身が顕になる。
貧相だった顔は精悍な男のそれとなり、髪の毛も増える。体格から顔貌から、何から何まで先程までの京本とは全くの別人へと変貌した。
その姿は、石川でダリたちと邂逅したカダマシのそれだった。
これが、カダマシの使う神宝『生玉』の力だ。生玉は端的に言えば、肉体の形状やステイタスを自在に操ることができるのである。今のこの姿は、彼が『童子』と呼んでいる、カダマシが最も頻繁に用いている攻守のバランスが取れた標準的なフォルムだった。筋力、スピード、耐久性が通常の人間のそれの何倍にも調整されている上、五感の感度も鋭敏化している。『童子』状態のカダマシと肉弾戦をして通常の人間が勝つことはまず不可能である。
「完璧な変装だったはず・・・だぜ?声や指紋まで変えたってのによ」
「お前の反吐が出るような匂い。忘れるわけがなかろう」
かは!と妙な笑いをカダマシが挙げる。
「そうかいそうかい。今度は匂いにも気をつけるとするよ・・・。」
「綾音を返してもらおう。死にたくなければ答えよ・・・主の神宝は姿を変えることはできても、不死身ではない。微塵に切れば死ぬのだろう?今、綾音の居場所を教えれば、殺さずにおいといてやろう」
これを避けるのか・・・
十分気を練って、隙を突いたはずの刺突だった。
そう、彼の槍の穂先は狙い通りなら、京本の喉元を切り裂くはずであり、通常の人間の反射神経では、もはや逃れることができないほどの速度で薙ぎ払われていた・・・はずだった。
しかし現実に起こったことは違った。あり得ない反射速度で反応した京本は、重力を利用して、ふわりと真後ろに倒れ込んだ。結果、本来首があるはずのところが空となり、穂先は虚空を切り裂くことになった。そして、そのまま京本は後ろ手に地面を捉え、ぐいっと身体を伸展させる。いわゆるバク転というやつである。
「なんでぇ・・・バレてたのかい」
暗闇の中、京本のシルエットが大きく膨らみ始める。肩が盛り上がり、脚が伸び、太ももが大きく発達する。胸筋が膨れ上がり、首が野太くなっていった。あまりの急激な身体質量の増加にワイシャツが裂け、上半身が顕になる。
貧相だった顔は精悍な男のそれとなり、髪の毛も増える。体格から顔貌から、何から何まで先程までの京本とは全くの別人へと変貌した。
その姿は、石川でダリたちと邂逅したカダマシのそれだった。
これが、カダマシの使う神宝『生玉』の力だ。生玉は端的に言えば、肉体の形状やステイタスを自在に操ることができるのである。今のこの姿は、彼が『童子』と呼んでいる、カダマシが最も頻繁に用いている攻守のバランスが取れた標準的なフォルムだった。筋力、スピード、耐久性が通常の人間のそれの何倍にも調整されている上、五感の感度も鋭敏化している。『童子』状態のカダマシと肉弾戦をして通常の人間が勝つことはまず不可能である。
「完璧な変装だったはず・・・だぜ?声や指紋まで変えたってのによ」
「お前の反吐が出るような匂い。忘れるわけがなかろう」
かは!と妙な笑いをカダマシが挙げる。
「そうかいそうかい。今度は匂いにも気をつけるとするよ・・・。」
「綾音を返してもらおう。死にたくなければ答えよ・・・主の神宝は姿を変えることはできても、不死身ではない。微塵に切れば死ぬのだろう?今、綾音の居場所を教えれば、殺さずにおいといてやろう」

