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天狐あやかし秘譚
第66章 奸智術数(かんちじゅっすう)

☆☆☆
「ダリはん、大丈夫かいな」
独り言のように土御門様が呟いた。綾音が『まつろわぬ民』に連れ去られてから丸一日が経過していた。
天狐ダリは先遣隊の他のメンバーに先立って、単独で陰陽寮に帰還していた。綾音を探索する上で必要な縁を持つダリを土御門様が早々に呼び寄せたのである。そういうわけで、彼は昨日の夜半過ぎにはすでに陰陽寮にいたのだが、見ているこちらの胸が痛くなるほどの強烈な悔恨の念を抱いている様子が伺えた。
それは怒り、多分、自分に対する怒りだろう。
綾音が連れ去られたとき、彼は綾音を追うことよりも土砂崩れに巻き込まれそうになった陰陽師たちの救出を優先し、さらに、土砂が麓の村に押し寄せないようにせき止めることに、その妖力を使用した。その甲斐あって、人的被害は最小限に抑えられ、九条以外の先遣隊員はすでに戦線に復帰できる状態だ。一番怪我の程度が重かった九条ですら、回復術が奏功すれば明日にでも活動を再開できる見通しだ。
被害が最小限に食い止められたのは、明らかに天狐のおかげだ。しかし、怒りのあまり溢れかえりそうになる妖気を必死で押さえつけている様子を見ると、彼自身は、綾音を連れ去られたこと、今も見つけることができていないというこの事態を、耐え難く感じているのがよく分かった。
「確認していませんが・・・おそらく大丈夫、ではないでしょう」
そうとしか言いようがなかった。
天狐がそんな様子なので、『大丈夫なのか』など、誰一人確認していない。いや、正確にはできないのだ。近づくだけでも恐ろしい。
唯一、土御門様だけはそんなダリとも対等に話すことができるみたいだ。
「土門の方は?」
土門、つまり占部衆は、という意味である。今、占部衆は、土御門様の指示で総力を上げて綾音の探索を行っている。しかし・・・
「まだ、発見には至っていないと思われます」
「さよか」
はあ、と息をつき、窓の外を見る。今は、手がかりがない以上、最善手を打った上で待つより他、選択肢はない。
「ちょっとダリはんのとこ、行ってくるわ」
待つだけというのは、土御門様の最も嫌う行為のひとつだ。居ても立ってもいられないのだろう。
「瀬良ちゃんは、ここで連絡、受けといて。
なんかあったら電話頂戴」
そう言い残して、執務室から出て、天狐がいる陰陽寮の屋上に向かった。
「ダリはん、大丈夫かいな」
独り言のように土御門様が呟いた。綾音が『まつろわぬ民』に連れ去られてから丸一日が経過していた。
天狐ダリは先遣隊の他のメンバーに先立って、単独で陰陽寮に帰還していた。綾音を探索する上で必要な縁を持つダリを土御門様が早々に呼び寄せたのである。そういうわけで、彼は昨日の夜半過ぎにはすでに陰陽寮にいたのだが、見ているこちらの胸が痛くなるほどの強烈な悔恨の念を抱いている様子が伺えた。
それは怒り、多分、自分に対する怒りだろう。
綾音が連れ去られたとき、彼は綾音を追うことよりも土砂崩れに巻き込まれそうになった陰陽師たちの救出を優先し、さらに、土砂が麓の村に押し寄せないようにせき止めることに、その妖力を使用した。その甲斐あって、人的被害は最小限に抑えられ、九条以外の先遣隊員はすでに戦線に復帰できる状態だ。一番怪我の程度が重かった九条ですら、回復術が奏功すれば明日にでも活動を再開できる見通しだ。
被害が最小限に食い止められたのは、明らかに天狐のおかげだ。しかし、怒りのあまり溢れかえりそうになる妖気を必死で押さえつけている様子を見ると、彼自身は、綾音を連れ去られたこと、今も見つけることができていないというこの事態を、耐え難く感じているのがよく分かった。
「確認していませんが・・・おそらく大丈夫、ではないでしょう」
そうとしか言いようがなかった。
天狐がそんな様子なので、『大丈夫なのか』など、誰一人確認していない。いや、正確にはできないのだ。近づくだけでも恐ろしい。
唯一、土御門様だけはそんなダリとも対等に話すことができるみたいだ。
「土門の方は?」
土門、つまり占部衆は、という意味である。今、占部衆は、土御門様の指示で総力を上げて綾音の探索を行っている。しかし・・・
「まだ、発見には至っていないと思われます」
「さよか」
はあ、と息をつき、窓の外を見る。今は、手がかりがない以上、最善手を打った上で待つより他、選択肢はない。
「ちょっとダリはんのとこ、行ってくるわ」
待つだけというのは、土御門様の最も嫌う行為のひとつだ。居ても立ってもいられないのだろう。
「瀬良ちゃんは、ここで連絡、受けといて。
なんかあったら電話頂戴」
そう言い残して、執務室から出て、天狐がいる陰陽寮の屋上に向かった。

