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天狐あやかし秘譚
第125章 危機一髪(ききいっぱつ)
☆☆☆
あの日は、いつもと変わらない日だった。

6月の上旬。外では梅雨空からぽつりぽつりと陰鬱な雨が降っていた。黄泉平坂を開くという緋紅様の思惑が外れ、私たちの陣営は二人の神宝使いと、三つの神宝、そして、底しれない強さを秘めた怨霊・ヤギョウを失った。

これだけの戦力ダウンを被り、必然的に緋紅様の計画は数週間以上、遅れることになってしまった。最初は緋紅様の機嫌が悪くなり、私たちにもあたりがきつくなるのではないかと危惧していたのだけれども、あにはからんや、私たちの主は上機嫌だった。

その原因はあの鏡にあるようだった。

――神代鏡

私や水有が持っている沖津鏡等より二回りほど小さな古代鏡だった。緋紅様はその鏡を神宝を据えている壁にではなく、上の間の奥、最も大切なものを置く場所に、まるで神棚に祀る御神体のように据え付けていた。

時折満足げにその鏡を眺めているところを見ると、あの黄泉平坂で払った代償以上の意味がその鏡にあるのだと感じずにはいられなかった。

一度、聞いてみたことがある。『その鏡はどのようなものなのですか?』と。その問いに対して、緋紅様は『これは鍵なんだよ』とだけ言った。後の言葉は続かなかったので私も、それ以上聞くことはできなかった。

「さあ、そろそろ今日も休もうか」

あの日も確かそのように緋紅様が言ったと思う。
この時間になると、どうしても、私も水有も色めき立ってしまう。

今日はどちらを愛してくださるの?

チラと水有の方に目をやる。水有も何食わぬ顔で手をつき、額づいているように見えるが、私と同じ気持ちなのは明らかだった。

16歳だった私たちは、緋紅様によって女の快楽を身体の髄まで叩き込まれていた。そして、この震えるほどの快感を私たちに与えてくれるのは、緋紅様をおいて他にいないのだ。

緋紅様の『攻め』は時に脳を焼き切るような快感を与え、時に身体が蕩けるような甘く痺れるような官能を与えてくれる。たとえ、苦痛や恥辱に似た思いがあったとて、その直後には温かく優しい時間を用意してくれる。

もう、私も水有も、その時間なくしては、一日たりとて我慢できないようになってしまっていたのだ。それが証拠に、夜伽の時間が近づくにつれ、私たちは乳首が恥ずかしいほど隆起し、自然と下衣が濡れるのを感じずにはいられなかった。
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