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淫夢売ります
第55章 斜陽の楽園:壊れる世界
私は夜の街を走っていた。

どこに行けばいいのかなんてわからない。とにかく逃げなくては・・・その一心で重い足を前へ前へと出し続けていた。何度も足がもつれそうになるが、そのたびに体勢を立て直し、息を切らせ、ひたすらに走る。

自分が今、どこを走っているのかもわかっていない。繁華街の細い路地のようなところだ。表通りからだいぶ離れてしまっている気がした。だからこそ、とにかく明るいところに、人のいる方に・・・

カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ・・・

走る私のヒールがアスファルトに刻む音がやけに静かな裏道に響き渡る。

たたたたたたたたた・・・

その後にピッタリと張り付くようについてくる足音。
その足取りは遅くなることはなく、決して振り払えないという絶望感を私に与える。そして、それと同時に、この非現実的な状況が『夢』であることも私は理解していた。

夢なんだから・・・夢なんだから・・・早く目覚めて!

祈るような気持ちで走るが、それでもこの悪夢から抜け出せるような兆しは見て取れなかった。後ろからはひたひたと『ヤツ』が追いかけてくる。

はあ・・・はあ・・・はあ・・・

呼吸をする肺が悲鳴を上げる。刺すような痛みが胸を走り、足が次第に鉛のように重くなっていく。

逃げなきゃ・・・早く、早く・・・

揺れる景色の先が路地の突き当りになっている。T字路だ。

どっちに行けばいい?右?それとも左?

一瞬の判断。両脇には雑居ビルが立ち並んでいるし、音が聞こえるわけではない。それでもどちらかを選ばなければならない。

・・・右・・・!

咄嗟に決断し、私は右の路地に飛び込んだ。

ひゅっ!

息が切れた喉で鋭く呼気が鳴る。私は立ち止まり、息を呑んでしまっていた。

なんで!?

曲がった路地の先に、あの黒尽くめの男がいたのだ。レザーのジャケットに両手を突っ込み、息を切らせた様子もなく、そこに立っていた。夜なのでサングラスこそしていなかったが、帽子を目深に被っているため、その表情をうかがい知ることは難しかった。
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