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淫夢売ります
第28章 白の花園:知らない夢
☆☆☆
「ここが、夢占モルフェ?」
建物自体は間口が狭い普通のビルのようだが、扉が古い木造りのもので、それがひときわ目を引いた。扉にはこれもまた木の看板がかかっており、『Oniromancie Morphée』と書かれていた。前半の単語の意味はわからないが、後半がかろうじて「モルフェ」と読めるので、ここが目的の場所だと知れた。

私は生まれてこの方、占い師、というものに会ったことがない。ただ、何事にも初めてはあるものだし、と思い直し、その扉を開いてみた。

扉は存外に重く、体重を後ろにかけるようにして引くことでやっと開いた。中は間口から想像できるように狭く、そして暗かった。天井から幾筋もの黒いビロードのような布が垂れ下がり、そこにスパンコールのような装飾がついていた。店内の薄暗い明かりの光を返して、夜空の星のように見えなくもなかった。それ以外に、銀色の金属でできた月や星のオブジェのようなものもぶら下がっている。

占い師がいる館然としていると言えばそうだった。

扉を開けたときに、そこについている鈴が音を発する仕組みだった。その音を聞いたのか、奥から女の人の声が聞こえた。

「どうぞ、こちらに」

占い師は女性。これも噂通りだった。
奥の間と手前のスペースは、厚手の黒いカーテンのようなもので仕切られている。それを割って奥に入ると、そこには女性がひとり、小さな机を前に座っていた。

「どうぞ、おかけください」
そう言ってニコっと笑う。

黒くて長い髪、白く抜けるような肌に、体にピッタリしたロングスリーブ・フレアスカートの黒いワンピース。胸元には黒いリボンが結ばれている。それがなければ喪服にすら見えそうだった。

目を強調したメイクをしている。そのせいか、その目に吸い込まれそうになる。
いや、メイクのせいばかりじゃない。その瞳だ。瞳が、本当に黒い。
たしかに日本人の目は黒色色素が多いが、ここまで黒いということはあり得るだろうか?まるですべての光を吸い込んでいるような、そんな錯覚すら覚えた。

いや、違うか、店が暗いから、そんな風に見えるだけだろう。

黒いビロードのクロスがかかった小さい机の前には丸椅子が置いてある。これが多分客用なのだろう。促されるままそこに腰を掛けた。
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