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The Bitch (ザ、ビッチ)
第8章 エピローグ  『わたしの好きに...』
 18

 姿見に写るその姿が…
 自ら開けた穴から広がり、走る、ストッキングの伝線という亀裂のスジが…
 まるで今の自分の心の姿に…
 それが心の穴そのものに見えてしまい…

『あ……』
 わたしは愕然と心を震わせ、揺らいでしまう。

 その瞬間…
 今までの昂ぶりの疼きが瞬く間に、醒め、冷めてしまった。

 そして…

「あぁ…か、かずやぁ………」
 わたしは無意識に…
 ビッケの…
 和哉の…
 名前を呟いてしまう。

「え……」

 その無意識な、自らの呟きの声に、いや、その呟きの意味に…
 わたしの小さかった心の穴が…
「あ、あぁぁ………」
 まるで『ビリビリ』と激しい音を立て、大きく穴を、ううん、大きな穴が一気にこのストッキングに広がっていったみたいに…
 そんな衝撃が、心に走り抜けていったのだ。

「あぁぁ…ぁ…」
 そしてその衝撃に愕然としてしまい、まるでベッドに深く沈み込んでいくような錯覚に陥り…
 ストッキング脚の伝線のスジや、それを遡っての自ら開けた股間の穴を目の端で捉え、心の目に投影していく。

 あぁ、まるでわたしの心みたいにボロボロだわ…

 和哉を、ビッケを失くしたボロボロのわたしの心みたい…

 そう本当は、わたし自身、この心の小さな穴に隠れ、いや、隠していた想いの存在の正体を…
 知っていた。

 それは和哉…
 愛しいかずや…
 ペットという存在感に無理やりこじつけ、擬態化させたセフレという愛しい存在のビッケ…

 本当は和哉という存在感を、無理やり心の穴に隠していたのだ。

 忘れてなんかいない…
 いや、忘れられるはずがない。

 それに本当は分かっていた。
 あのハイヒールを愛しそうに見つめていた、昨夜の彼のフェチな濡れた目からも…
 そしてさっきのバーでの麻妃ちゃんからのあの…
『わたしだったら舐めちゃうのにぃ…』
 という囁きからも…
 
 わたしはそれらから和哉の存在感を想起してしまい、その想いを必死に心の穴に隠していたということを…
 そしてこの昂ぶりの疼きは和哉への想いの未練であることをも…

 だけど、だけど…
 わたし自身の愛の象徴であるストッキングという存在の、その破れ、いや、自ら破いてしまったそのボロボロな姿を見たら…
 隠していた和哉への想いが一気に溢れ出てしまったのである。

 そして…涙も。

 
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