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The Bitch (ザ、ビッチ)
第8章 エピローグ  『わたしの好きに...』
 1 『わたしの好きに…』

 あの和哉、ビッケと麻耶さんとの衝撃の夜から約二か月が過ぎ、和哉の影が完全になくなり…
 あの二年間という時間、ビッケとビッチの関係が…………
 終わったのだ。

 そして初夏を迎え、仕事の激務も一段落し…
 心の傷も少しずつ癒え、以前の、そう、和哉と知り合う前の日常にゆっくりと戻りつつあった。


「いらっしゃい、悠里さん」
 わたしは和哉の影が無くなったこの頃から、再び『Bar Bitch』に、昔の様に仕事終わりに寄るようになっていた。

「うん、彩ちゃん…
 とりあえずマティーニね…」
 カウンターのいつもの席に座るなりそう注文をし、まだお客様がまばらな薄暗いバー特有の店内を一瞥する。

 その薄暗い店内には静かなジャズのBGM が流れ、そして微かに漂うタバコの煙…
 こんなBar 特有の雰囲気が大好きであった。

『悠里さん、大分、気持ちも落ち着いてきたみたいですね…』
 と、少し前に彩ちゃんにそう云われたくらいに、和哉ショックによる心の揺らぎは感じなくなっていた。

 僅か二か月くらいの時間しか経ってはいないのだが、やはり、わたしは…
 わたしの本質は、クソオンナのビッチなんだろう…
 それに、カラダの疼きも最近、また、感じ、自覚するようになってきていて…
 つい最近…
 とうとう、一人寝のソロプレイも復活させてしまう。

 
「はい、お待ちどうさま」
 彩ちゃんは静かに、マティーニをカウンターに置く。

「ありがとう…」
 そしてわたしは、そのマティーニに添えられているゴールドのカクテルピックに刺してあるオリーブをおもむろに持ち上げ、唇に含み、噛みしめる。

 
「ほお…いきなりオリーブを囓る女性は初めて見た…」
 すると…
 コの字状のカウンターの左側に座り、タバコを燻らせている男が、そんな声をかけてきた。

「え…」
 わたしは思わず、その男を見る。

 この店では初めて見る顔…
 おそらくは四十代後半だろうか…
 上質そうな仕立てのダークスーツを纏い…
 ウイスキーのロックグラスを前に…
 そして左手でタバコを燻らせ…
 その手首にさりげなく、高級そうなデザインの腕時計が覗く。

 そして…
 そのタバコを挟んでいる左手の薬指には指輪が見えた。

 この彩ちゃんの店には、ほぼ見かけない人種の客といえる…





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