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千一夜
第60章 第八夜 island その島について
「それでは多数決を採ります」
 息子の良輔が、河田と私に顔を向けてそう言った。
「はい!ママは棄権します。ママはあの島には行きません。絶対に行きませんから。どうしても行きたいのなら、パパと良輔だけで行ってください」
 私は手を挙げてそう答えた。
「ずるいよママ」
「そうだよな、ママはずるい」
 河田が良輔に加勢する。
「ずるいのはどっちよ。結果がわかっているのに多数決を採るだなんて卑怯よ。賛成はパパと良輔の二票。反対はママの一票だけ。だからママは多数決を拒否します」
「ママは民主主義をわかってないよ」
「はぁ? 民主主義?」
「国会だって多数決を採るでしょ。民主国家には多数決が必要だってパパが言ってたもん」
「国会とか民主国家なんて言葉は、中学生になったら覚えなさい。今やらなきゃならないのは学校のお勉強よ」
「中学生になってから覚えろって誰が言っているんだよ。小学生だって国会や民主国家について勉強する権利がある」
 そう言ったのは河田だ。国会や民主国家という言葉だけでなく、河田は時間があれば小難しい言葉(私にとって)を良輔に教えている。
「もう勝手にして。私は池沢さんと加藤さんを誘って北海道に行きますから」
 河田と結婚しても、池沢や加藤そして聖子ママとの付き合いは続いていいる。
「ママ、それは反則でだよ」
「どうして反則なのよ?」
「家族旅行は家族全員で行かなければならないじゃん。だからママも行かなければならないんだよ」
「そうだよな、良輔の言う通りだよ」
「どうせあなたが教えたんでしょ。ママは絶対に行きませんから」
 子供の成長を嬉しく思わない親はいない。だが、日に日に良輔が河田に似ていくのが何だか悔しい。
 私の抵抗もここまで……、それでも私は最後の切り札を出した。
「五千億円の赤字を出した会社の役員が、この夏休んだりしていいの? 週刊誌の記者に追いかけられない? ○○〇の河田の夏のバカンスは、○○島だって週刊誌に出たら、株主総会で吊るしあげられるわよ」
「心配ご無用。僕が必ず復活させます。それに休暇だって大事なんだよ。日本もようやくそれが理解されてきたんだ」
「それが理解されたって、休暇のこと?」
「そう。仕事をしてしっかり休む。仕事仕事ではダメなんだよ」
「島に行きたいあなたの都合でしょ?」
「バレた?」
「バレバレよ」
「ははは」
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