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千一夜
第60章 第八夜 island その島について
 現代は、流行り言葉の裏側に潜んでいる真実を見極める時代だと言っていいかもしれない。
 言葉には必ず表と裏がある。心地よく耳に届く言葉を簡単に信じてはいけない。そう言う響きの中には、人を惑わす妙薬のようなものが隠されている。用心するに越したことはない。
 河田の言葉に嘘はなかった。
 見たことがないコバルトブルーの海。透明な海の中に泳ぐ魚が確かに見えた。もちろん私は感動した。水平線に沈んでいく夕陽を見ていると涙が出そうになった。
 食事も申し分なかった。民宿のお爺さんとお婆さんが作る海の幸、そして肉料理は絶品だった。
 民宿の部屋は、私が学生時代に住んでいたアパートのようだった。一流ホテルのような豪華さはなかったが、こういう島の宿にはぴったりの部屋だと思う。
 クーラーはなかったが、部屋の窓を開けてると入ってくる海風が、私と河田に安眠をもたらした(信じてもらえないかもしれないが、ストンと眠りの世界に落ちると、私は朝まで目を覚ますことがなかった)
 部屋の掃除も洗濯も、お爺さんとお婆さんがしてくれた。後で自分で洗濯をするつもりで隠していた私のブラジャーとショーツも綺麗に洗濯されていた(恥ずかしかったが)。
 こういう状況を予想していたのか、空港で河田は私に文庫本を買ってくれた。
「麗子、これ面白そうだから」
 河田はそう言って、綾辻行人の文庫本を三冊買った。
「これ推理小説?」
「みたいだね」
「あなたは読んだことないの?」
「残念ながら」
「読んだことがないのにどうして面白いとわかるの?」
「なんとなく。でもなんかさ、この帯の解説がいいじゃないか。きっとドロドロした物語なんだよ」
「そんなの帯に書いてある宣伝文句でわかるの?」
「まぁ、僕を信じてよ」
「……」
「ただね、読む時間は昼だよ」
「どうして?」
「麗子が怖くなって眠れなくなったら困るからさ。それとさ、夜はエッチの時間だろ」
「バカ」
 河田が私に買ってくれた三冊の本は、島ですべて読み終えた。河田のお陰で私は綾辻行人のファンになった。
 だが、コバルトブルーの海も美味しい食事も、それが当たり前になると感動が薄れてきた。本は面白かったが、何もしない時間のせいで、普段の生活に戻りたいと言う欲求が強くなっていった。
 そしてこれが一番重要なのだが、私はこの島が少し変だと言うことに気付いたのだ。
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