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千一夜
第59章 第八夜 island 違和感
 普通の男なら(私が思う普通の男という意味)、私の様子を察してくれればバスルームから出て行くはずだ。私は河田を本気で拒んでるのではない。バスルームで無理やりなんて嫌だと河田に伝えているのだ。
 河田は私のサインを受け取った。河田は、逃がすまいと私を強く抱きしめていた手を緩めた。私は解放された……。しかし河田はバスルームから出ては行かなかった。
 ならば河田はバスルームの中で何をしていたのか?
 正直それを話すのは恥ずかしいが、話さなければ私の中で燻り始めた違和感の源をわかってもらえないだろう。
 河田はシャワーを浴びる私の姿を見ながら自慰行為をしていたのだ。河田の長くて太いものが硬くなる。河田は自分の性器をひねりつぶす勢いで右手を激しく動かしいていた。
 ときおり、河田から漏れてくる声が私の耳に届いた。「うっ」とか「ああ」とか。
 河田とこういう部分で(男と女の交わりの部分)でわかり合えていたなら、その声は私の秘部を濡らす助けになる。だが、今私の耳が捉えている河田の声は、妙な生き物の声のようにしか感じない。耳を塞ぎたくなるような音。私は初めて河田に対して嫌悪感を抱いた。
 本来なら、高級ホテルのバスルームに備え付けられているソープをたっぷり体に付けて、そして温かな湯で体を念入りに洗う(女なら当たり前のこと)。しかし河田はそれを許さなかった。
 同じバスルームの中で、河田は私に自分の自慰行為を見せて私を急かしているのだ。早くしろ。もうそれで十分だ。ベッドに行け。無言だが河田は私にそう命令している。
 河田の無言の命令に従うわけではないが、私はシャワーを終わらせた。バスルームを出るとき、私は獣に変身した河田にこう言った。
「あなたも体を洗って、しっかり洗ってね」
「……」
 しっかり洗えと言っても、今の河田にはあまり……いや、ほとんど意味はないだろう。それでも私はそう言った。
 脱衣所で体を拭き、ホテルのバスローブを羽織った。冷蔵庫からアルミの容器に入っているミネラルウォーターを取り出して、窓の向こうの東京の夜景を眺めながらそれを飲んだ。
 空しくなった。折角の夜景なのに楽しむことができない。これでは、新宿か渋谷辺りにあるラブホと同じではないか。
 そんな風に思っていたとき、バスルームから出て来た河田の気配を感じた。
 カラスの行水か、私はそう思った。
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