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千一夜
第56章 第八夜 island 二本の電話
「君、ゴルフの方はどうだね?」
「ゴルフ……ですか?」
「そうだ、ゴルフだ。ゴルフするんだろ?」
「いいえ、一度もしたことがありません」
「一度も?」
「はい、一度もです」
「そんな人間もいるんだな。君の歳ならジム通いか?」
「いいえ」
「ジムにも行かない?」
「はい」
「だったら何か別のスポーツでもしているのか?」
 加地は河田をじっと見てそう訊ねた。
「社会人になってからはスポーツに縁がなくなりました」
「それは良くないな。学生時代は何をしてたんだね?」
「自転車部R班に所属して、自転車で旅をしてました」
「自転車部R班?」
「はい」
「自転車で旅か……楽しそうでもあり苦しそうでもあるな」
 部屋にいるS関係者十人と池沢は、加地と河田のやり取りを黙って聞いていた。
「……」
 河田は加地の腹の中が読めない。
「よし、次の日曜ゴルフだ。河田君、付き合いなさい」
「承知しました。でも僕なんかが社長のキャディーとして役に立つんでしょうか?」
「寝ぼけたことを言うな。君もゴルフをするんだよ」
「加地社長、今申し上げた通り、僕にはゴルフの経験がありません。僕がゴルフをしたところで加地社長の足手まといになるだけです」
「そんなことはわかっているよ」
「ならば少しお時間をいただけませんでしょうか?」
 少なくとも一月は時間がほしい。いや、それでもゴルフはマスターできないかもしれないと河田は思った。
「無理だな」
「無理?」
「それが条件だ。君が優秀な人間だということはわかる。この資料だって精査したところで君の優秀さを認めるだけの作業になるはずだ。でもな、優秀な人間には冷静であるということも求められている。君はさっき我が社の社員を無能呼ばわりした。だからね、今僕はね、はらわたが煮えくり返っているんだ。小生意気な君をゴルフでコテンパンにやっつけてやりたいわけだ」
「……」
 後悔先に立たず。確かにさっきは言い過ぎてしまったと河田は悔やんだ。
「どうだね? 条件を飲むかね?」
「承知しました」
「よし、では三日後にここで君たちを待っている。まさかそのときは君たち二人じゃないだろうね」
「もちろんです」
「三日後、向こうの席には我が社の役員が座ることになる。今日顔を出さなかった君の会社の社長をたっぷり苛めてやるから覚悟しておけ。そして君も覚悟しておけ。わかったな?」
「はい」
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