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千一夜
第51章 第七夜 マスカレード
 自分の目で見て、自分の耳で聞く。そうは言ったが、こうなることはある程度予想できたことだ。どういう組織でも個人情報は守らなければならない。まして私は司法機関の人間ではない。一般人の私にはできることには限りがある(言い訳にしかならないが)。
 それでも江村都子という人間は、高校卒業以来県外へは出ていないこと。そしてJ〇は江村都子にとって三度目の勤め先になるということがわかった。
 人柄も温厚で美人だからと言ってギスギスした感じは一切なかったそうだ。何人かの男にプロポーズされたことがあったようだが、そのすべての男たちは都子からうまくかわされていたらしい。
 そしてもう一つ大切なこと。年齢は咲子と同じ三十九だということだ。
 結論はこうなる(納得してはいないが)。確かに私が持参した写真に写っている女性(沢田絵里)は江村都子に似ている。同一人物だと言ってもいい。だが、世の中には都子に似ている人間がいないとは言えない。似てはいるが、おそらく別人なのではないか、ということで終わった(いや、無理やりにそういう結論を出した)。
 それから私と咲子は、田中から今夜宿泊する宿まで送ってもらった。
「わざわざ角館まで来ていただいたのにお役に立てずすみません」
 田中はルームミラーに写る私と咲子にそう謝った。
「とんでもないです。お仕事があるのにみなさんにご迷惑をかけてしまいました。謝るのは私たちの方です。ありがとうございました」
 運転している田中に私は頭を下げた。
「あの、こちらでも、江村さんの知り合いを探してみます。そういう方からの情報だったら個人情報の漏洩にはならないでしょうから」
「よろしくお願いします」
「連絡先は、先ほど頂いた長谷川さんの携帯の番号でよろしいでしょうか?」
「はい、構いません。ご面倒おかけします」
「いえいえ」
 J〇から今夜宿泊する宿まで、十分もかからずに着いた。
「送っていただきありがとうございました。皆様によろしくお伝えくださいませ」
「はい。あっ、それから余計なお世話ですが、この近辺の飲食店は閉店時間が早いところが多いです。外に出られてお食事をするご予定がありましたら、気をつけてください」
「ありがとうございます」
 田中は運転席から降りてきて、私たちの鞄を持とうとしたが、私は丁重にそれを断った。
 これで新婚旅行の続きができる……。
 
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